第十一話 加勢してくれる

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第十一話 加勢してくれる

「さやか、何か顔色悪くない?お節介かもしれないけど睡眠だけはちゃんととった方がいいわよ」 さやかは疲れた笑いをすると、そうだねと言った。 「仕事は忙しいの?」 そう聞く律子に対してさやかはうん、まあ自分の部署のトップがよそに引き抜かれて会社を去ったから、その後任者と少しうまくいかないぐらいかなと言った。 「さやかでも馬が合わないことってあるのね」 私が珍しいという顔をすると彼女はああ、そうではないのだけど・・・と言葉を濁した。 「お互いに合意の下で何度か泊まりに行くことになっちゃって・・・」 ああ、そういうことねと納得する私に対して律子はちょっと変わり身がはやくない?と正直な感想を述べた。 瞳もそうだったが、律子もわりと思ったことや物事をずけずけと言うところがある。 「じゃあさやかのところに身を寄せてた年下の彼とはもう終わったの?」 律子がそう聞くと私は内心もったいないなと思った。 そのヒモのような年下の彼氏の写真を一度だけ見せてもらったことがあるのだが、とびきりのいい男だったからだ。 さやかのような地味な女になぜあのような男が吸い寄せられていくのかがいまだに不可解だ。 「それが・・・、彼には別れ話を切り出したんだけど思いとどまってくれって泣かれちゃって・・・」 結局保留の状態のようである。 「その若い子と付き合ってて何か意味はあるの?」 律子がそう言ってギブアンドテイクな関係じゃないと、と付け加えるとさやかは力なく笑った。 「それじゃあただの都合のいい女よ。そういうくだらない男はさやかみたいな人の善意につけ込むんだから」 そう言う律子に自分はいつも小さい獲物を追っているだけなのに人にレクチャー出来る立場なのだろうかと思ったが、確かにさやかの行動にも少し問題があるのは事実だ。 以前瞳とどうかと思うと話していたさやかのアロハシャツの元カレもどこかのチンピラで、借金返済を怠ったために複数の人間から追われていて、さやかが彼をかくまってあげていたのだ。 さやかはその彼のためにお金持ちのおじさんと寝てはお金を作っていた。 この事実はなぜだか私だけが知っている。 やっと彼の借金の返済のめどがたったと思ったらふっと彼は姿を消してしまった。 彼に入れ込んでいたさやかは相当なショックを受けて、もうわけのわからない男と関わるのはやめるなどとそのときは言っていたが、数か月後には落し物の携帯を拾ってその持ち主と寝ていた。 さすがにそのときは私も律子ではないが、ちょっと自分を捨て過ぎだとさやかに怒ってみせたりした。 「その会社の上司とは関係をもったら仕事をやりずらくなったとか?」 さやかは暗い面持ちのままそうではないのだけれど、年下の彼の不在中に上司を家に呼んだところ、バッティングしてしまったのだと言った。 「居留守を使おうと思ったんだけど、彼がドアを破って中に押し入ってきちゃったの」 淡々と話すさやかの言葉を聞いて、私と律子は目を開いて顔を見合わせた。 「最悪なことに、私の服が乱れてたものだから彼がキレてしまって、叫びながら上司の体に覆いかぶさってきたのよ」 私は格闘するさやかの男二人を想像しながら、思われる立場というのも度を超すと怖いなと思った。 「あのこがね、上司と私に口止め料とか言ってお金をせびってくるようになっちゃって・・・」 なんだかさやかや律子の話を聞いていると自分の彼は多少口が悪いがものすごくいい人のように思えてきてしまった。 私の全ての行動に無駄が多すぎるだとか物忘れを指摘されておばさん扱いされようが、そんなのはたいしたことではないのかもしれない。 「律子、それちょっと飲ませて」 私が律子の飲んでいるエスプレッソのフラぺチーノを味見させてくれとと言うと、彼女はまったく、という顔をして、あんたは何でも一口ちょうだいって言うわねとぶつぶつ言った。 「うん、功太郎にも指摘されたわ」 さやかは相変わらず力なく笑うと、祥子の彼はきっとすごく人間的にできた人だと思うと言った。 「どうしてわかるの?」 そう聞きながら、このセリフは数日前弟にも言ったなと思った。 「だって祥子って付き合ってる相手からいい影響とか悪い影響とかを直に受けるじゃない」 功太郎から前に言われたセリフと同じだったので驚きながらさやかの飲み物も勝手に味見していると、律子も共感して頷いた。 「確かに、今の祥子はなんかいいわよね」 律子に褒められるなんて滅多になことではないので私は聞き間違いかと思った。 「え、そう?そんなに綺麗になった?」 すると律子は口元をヒクヒクさせてあんたの顔なんてどうでもいいけど、強いて言うなら雰囲気かしらね、と言った。 なんだか曖昧な答えでよくわからなかったが、私は素直にありがとうと言った。 「功太郎は・・・、ときどき上から物を言うところがあるけど、私にはもったいないぐらいの人よ。瞳と付き合ってるときから・・・、多分紹介された頃から正直惹かれてたと思う」 するとさやかと律子は二人で目配せを交わした。 「私たち最近気付いたんだけど・・・」 律子は珍しく言葉を濁した。 「瞳は初めからあんたの功太郎さんに対する気持ちがわかってたのよ」 目をぱちくりさせる私に今度はさやかが続けた。 「瞳は功太郎さんの本だとかCDをよく祥子に又貸ししてたじゃない?」 「うん・・・」 「あれは瞳なりの橋渡しだったんじゃない?」 「そうなの?!だって・・・」 驚いてその後の言葉が続かない私を見て、さやかと律子は頷いて微笑んだ。 「私・・・、ちょっと今日は帰っていい?」 手元にあった携帯をバッグに放り込んでジャケットを掴むと、私は腰を上げた。 さやかと律子が何も言わないので、私は功太郎のところに行きたいのだと言った。 「実はまだ仲直りしてないのよ」 私がそう言うと律子はどうせ喧嘩していると思っているのはあんただけだと思うわよと言った。 律子の言葉を聞いてさやかはくすりと笑うと、そうかもねと言った。 私は二人にありがとねと言うやいなや店を飛び出して功太郎に電話をした。
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