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第十三話 対峙する
功太郎と付き合うことを一時でも瞳がよく思っていないのではないかと思い込んでしまった私は、彼女に謝りたい気持ちとありがたい気持ちが入り組んで、瞳の眠るお墓まで直接足を運んだのだった。
ひっそりとしたそのお墓は、よく言えば趣があるが、歩く道に念のため敷石が置いてある程度で、舗装されてはいなく、ぬかるんでいた。
途中引き返したい衝動に駆られてしまい、一緒に来ると言った功太郎をどうして制してしまったのだろうかと後悔した。
なんとなく自分が子ども時代を過ごした地元の神社を思い出しながら、恐る恐る歩を進めていると、葉が生い茂った道の先に身動き一つしない人のような形が私の眼前に浮かび上がってきた。
とうとうこの世のものではないものを見てしまったのかと思い、私はしばし耐えがたい恐怖に襲われていた。
しかしそれがじきに生きている中年の女性だということが分かったときには、心から安堵した。
瞳のお墓がこの辺りだということを事前に調べてあった私は、徐々にその女性に近づいていった。
遠目から見てもその彫の深い女性は瞳の生みの母親だということがわかった。
あまりにも生き写しなので、思わずあらゆる角度からじろじろと観察してしまった。
湿った空気の中でずっと同じ姿勢のままかがんでいた瞳の母親は私の存在に気が付くと一瞬びくっとしたが、どうにかこうにか私を他界した娘の知り合いのようだと認識したようだった。
「こんにちは」
輪郭までもが瓜二つな瞳の母親は腰を上げると私に控えめな笑みをして見せた。
歳のわりには若い風貌をしているが、少し酒で焼けてしまったような声をしている。
「初めまして。私、あの・・・」
普通に自己紹介をすればいいのだが、なぜだか私は口ごもってしまった。
「瞳のお友達?」
瞳同様、宝飾品などをつけたら派手すぎる顔つきをしたこの女性はよく見なくても充血した目をしているのがわかった。
「はい。ええと、中学時代からの親友です」
「そうなの。じゃああの娘にまつわる思い出は私より詳しいかしら・・・」
そう言って彼女は自嘲気味に微笑んだ。
「あの、瞳さんとは生前連絡を取られていたんですか?」
「いいえ、最近になるまでは一切連絡は途絶えていたの」
そうなんですかと言いながら、やはり瞳は成人するまではこの人のことを許す気にはなれなかったのかなと思った。
「あの子は・・・、自分の身に起こることがわかっていたのか、突然私の前に現れてせっかく血の繋がった親子なのだから和解しようと言ったかと思うと、別れを言う暇もなくこの世を去ってしまったの」
そう言って言葉を切った瞳の母親の目に涙が溢れてくるのがわかった。
胃が締め付けられるような思いにかられながらも私は彼女の美貌に関心しながら、血は争えないなあと思っていた。
「瞳は・・・、幼いころから自分を出さない子だったけれど、お友達とはうまくお付き合いしていたのかしら」
私はその言葉を聞いて思わず伏し目がちになってしまった。
耳元では虫の羽音がブーンと鳴っている。
「そうですね・・・、長い間同じ時を過ごしましたけど、よく二人で常識外れな事をしたりしてバカをやっていました」
瞳の母親はあら、と言って笑ってみせるとあなたに悪影響を及ぼしたりしなかった?と儀礼的に心配してみせた。
「いえ・・・、楽しい時間をいつも提供してくれました」
私が慌てて頭を振ってみせると彼女は軽く数回頷いた。
「でも・・・、今になって思うと人知れず悩んだりしていたのかもしれません」
そう言って私は言葉を切った。
彼女と二人して泣きたくはなかったので、涙が流れないように葉の隙間からかろうじて見える空を見上げた。
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