第十六話 計り知れない

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第十六話 計り知れない

瞳が実の母親の姉夫婦のところへ養子になった経緯をさやかや律子に話して聞かせると、二人は飲んでいる焼酎のグラスを見つめながらは黙って溜め息をついた。 「真相を知ってもなんだかしっくりこないわね」 律子がそう言うとさやかはそうね、なんとなく暗い気持ちになってしまうと言った。 「瞳の友達としてはひどい話に聞こえるかもしれないけど、一概にお母さんを責めることはできないと思う」 私の言葉に対してさやかは遠慮がちにそうかもねと言った。 「人間、判断力が鈍ってしまうときってあるのかもね」 律子は瞳の母親の心の痛みを察してか、ぼそっとそう言った。 「そういえば、瞳の育ての親御さんの方は大丈夫なのかしら」 ふいに思い出したというような様子で律子がそう言ったのでさやかは暗い面持ちをした。 「塞ぎ込んでらっしゃるだろうけど、一年近くは経つからどうにかまともに生活してはいるでしょうね・・・」 瞳が息を引き取った後、私たちは病院やお葬式で彼らの様子を目の当たりにして、慰めるという自信をなくした。 脱力感に襲われている彼らを訪ねることはしばらくの間差し控えようと三人で決めたのだった。 「礼儀として一度くらいはお線香をあげに行きたいわよね」 そう言う律子に対して、私は大らかそうな瞳の育ての母親と、失意の底にいる瞳の父親を頭に描き、なんとなくためらった。 「そうだね・・・」 どうする?という顔をしてさやかを見ると彼女は異論がないという顔をした。 いずれは必ず訪れなければと思っていた私は、律子の提案に賛成した。 「瞳のこと恋しがってるでしょうね、きっと」 さやかがそう言うと瞳の親御さんの今の生活を自分なりに想像してしまい、胸がいっぱいになってしまった。 色々な人から事故のことを根掘り葉掘り聞かれたのだろうとか、瞳がいない喪失感をどう克服したのだろうかと心配になった。 そう思うと、今すぐにでも彼らのところへ行って私たちも同じ想いですと、労りたくなってしまった。 そして私の心拍数は次第に増えていって、気が付くと涙が頬を伝っていた。 すると律子が私に向って自分のハンドタオルを投げて寄越した。 「身近な人を亡くした人たちはみんな同じ想いを背負って生きているのよ。深手を負ったのはあんただけじゃない」 私は涙を拭うと、小声でわかってると言った。
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