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第四話 In short
さやかと律子は初め私が功太郎と付き合うことを賛成しかねると言った。
「瞳は快く思うかしら」
口元に運んでいたブラックコーヒーのカップをソーサーに戻すと、律子はそう言った。
背後にメロウな曲が流れる品のいいカフェでのことだった。
「瞳とのことは過去のことだもの」
手元の棒状のシナモンを弄びながらぼそりと言うと、でもあの瞳の元カレだものねぇとさやかは心配そうな顔をした。
「私だってなんとなく功太郎は私と付き合うことに譲歩しているんだろうなとは思うわよ。でもいずれは誰かと一緒になるんだからそれが私だっていいはずよ」
功太郎にとって、瞳の代わりの人間などいないことはわかっているのだが、この先彼女以外の人と付き合うことを考えると心穏やかではいられない。
「ま、本人同士の問題だし、あまりとやかく言うのもね・・・」
そう言って律子はパンツスーツの足を組み直してタバコを吹かした。
功太郎を手に入れておいてなんだが、私自身、彼とはあまり長くは続かないのだろうなと思っている。
「好きになっちゃったんだから仕方ないよね」
さやかは私を元気付けるように言いながら、スフレにスプーンを入れた。
私はうんと言って頷くと、それより二人は最近どうなのと近況を促した。
「女の上司と男を取り合ったわ」
律子は淡々ともう終わった話だけど、と付け加えた。
彼女の付き合う男というのは、仕事絡みが多い。
相手は大抵抜けている男が主で、甘えてくる男も好みのようだ。
「所帯を持ってる男だったんだけど、あたしの部屋に上司だけでなく奥さんまで突然姿を現して、土下座して謝ってたわよ」
律子はそのその姿を見て一気に冷めたと言った。
どうやったらそういう修羅場に年がら年中遭遇するのだと思っていると、さやかが思い出したかのように言った。
「そういえば私は前彼だった人に土下座されたことあるわ」
「それは暴力を振るわれてさやかが鼻血を出したからじゃなかったっけ?」
私が呆れた溜め息をつくとさやかはそっかー、そういえばそうだったかもと他人事のように笑っているので、私は生前瞳がさやかのようなタイプは同じ女として許せないと言っていたのがわかるような気がした。
瞳はよくさやかと私に男に選ばれるのではなく、選ぶ側になれと言ってきた。
瞳の言いたいことは何となくわかるが、だからといって彼女のように肌に合わない男だったとか、わけのわからない理由で男と別れることなんてできない。
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