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第六話 どこに向かえばいい
「やったもん勝ちなんじゃん?」
功太郎との赤裸々なことをさやかや律子に相談するのがなんとなく躊躇われ、考えてみれば悩み事を相談するような友達などいない私は、思わず六歳も年下の弟の純一に相談を持ちかけてしまった。
「でもね、手をつないだだけでドキドキするのよ」
心の中で頼むから笑わないでくれと願いながら私は言った。
するとソファに横たわりながら雑誌に目を落としていた純一は案の定吹き出して笑った。
「同級生のおやじさんとも付き合ったことがある姉ちゃんのセリフとは思えないよな」
何年前の話を持ち出すのだと思い、私は反論した。
「あれは愛ちゃんのお父さんだって知らなかったのよ!真面目に考えて」
確かにその事実を知ったときの私は、地獄行きだと思った。
「悩殺するような服でも着ればいいんじゃん?」
「・・・・・・。あんたが女にしてほしいことじゃなくてさあ」
私は溜め息をつきながら、世の中の男がこいつみたいにみんな単細胞だったらこれほど頭を悩ませる必要などないのにと思った。
肩を落とす私を横目でちらりと見ると、純一は励ますように言った。
「でもさあ、瞳さんみたいに手を焼くようないい女と付き合ってた男が、姉ちゃんみたいなタイプをいいと思うことだってあると思うけど」
「・・・・・・。私みたいなタイプって、手を焼かずに済む女ってこと?それともいい女じゃないってこと?」
私が鋭い眼差しで純一をキッと睨むと、彼はうっと言って少し黙った。
「だからさあ、男だったら瞳さんみたいな派手な女に目がいきがちだけど、タイプじゃない女の内面のよさを知って、こいつも悪く無いかもと思うことだってあるかもしれないだろ」
タイプじゃない女という言葉が気に障ったが、とりあえず私はまあね、と返した。
純一は言い方は不謹慎かもしれないけれど、瞳が亡くならなければ功太郎と接近することはなかったのだし、せっかく私に訪れたチャンスなのだから、音をあげないで頑張ればいいじゃないかと言った。
その夜、私は高校生だった頃の夢をみた。
学校の最寄りの駅で電車を降りると、同じ制服を身に纏った生徒たちの中にひときわ目立つ瞳がいた。
あの頃はよく朝寝過ごして校門に向って走っていると瞳とよく遭ったものだ。
気が付くと私は教室の中で授業を受けていて、後ろの娘にとんとんと肩を叩かれた。
振り返ると彼女は小さく折りたたんだルーズリーフの切れ端を人差し指と中指の間に挟んで軽く振ってみせた。
誰もがしていたことであろうが、私たち四人も授業中にこのように
手紙を書いて回していた。
紙をあけてみると、それは一目で瞳の筆跡とわかるものだった。
目を通すと驚いて肩を上げてしまった。
『知ってるよ』
そこにはそう書かれてあった。
功太郎とのこと、あたし知ってるよ。
左斜め後ろに座っている瞳の方を恐る恐る振り向くと、そこには無表情の瞳がいた。
初めて見る顔だった。
「瞳・・・」
気が付くと私は自分の悲鳴で目を覚ました。
上半身をベッドの上に起こすと、私はどうして?と瞳に問いかけた。
どうしてそんな顔するのよ。
いいじゃない。
あんたはふるいにかけるほど男がいたじゃない。
私は瞳のように男の人に対して積極的ではないし、相手の腹を読むのが得意な方ではないので今まで功太郎との肉体関係にまるで関心の無いフリを貫いて彼の出方を待っていたのだが、もう待てないと、このとき思ったのだった。
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