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第七話 必死だった。
「何そんなにガツガツしてるんだよ」
居酒屋で散々ビールを飲んだ後に、私が今日はどこかに泊まろうと功太郎に提案すると、彼はいつものようにふざけ半分に言った。
「あなたと寝ておかないままもし死んだりしたら、きっと後悔するから」
真剣な顔をして私がそう言うと功太郎はお前みたいなヤツは長生きすると思うぞと言った。
「会ってその日ってわけでもないんだからいいじゃない」
さやかなんておとなしい顔をしていて男と結ばれるのがめちゃ早だ。
私なんて古風もいいところだ。
「もしかして、もしかしたら功太郎がそそる体をしてるかもよ」
「・・・・・・。ありえない」
彼は私の顔を一瞥した後、全身を遠目に観察してからそう言った。
なんだか私は自分を哀れに思えてきた。
「持ち合わせがないなら私がだしてもいい」
そう言いながら、私ってさやかと同じタイプだなと思った。
「そういうんじゃないけどさ、何か祥子とは気心が知れすぎてそういう気になれないい」
「・・・・・・」
寒かった。
秋でもないのに背中に木枯らしが吹いているような気がした。
「まだ瞳の尾を引いてるの?」
先ほどまでふざけて笑っていた功太郎の顔は真顔になって、口からは溜め息が漏れている。
「私と一緒にいれば瞳と繋がっていられるとでも思ったんじゃないの?」
不覚にも涙が出てきてしまい、我ながら女々しいなと思った。
私が男だったら、こんな女は面倒臭い。
「別れようか」
私が下を向いたままぼそりと言うと、功太郎は祥子がそうしたいならいいよと言った。
付き合おうかと聞いてOKをもらったときと同じ抑揚の『いいよ』だった。
椅子を倒しそうになりながらその場に立ち上がると、私はバッグを掴んで今まで生きてきた中で最も広い歩幅で歩みを進めた。
涙で化粧が落ちてどろどろになった顔で雑踏の中をを歩いていると、あまりにも辛くなってしまい、功太郎の口から出たことのある名前の元カレの修平につい電話をしてしまった。
彼は忙しそうで、傍らには上司がいるようだった。
「祥子?どうした」
明らかに様子がおかしい私を心配してくれているようだった。
「ごめん、何でもない。仕事中なんでしょ」
私は努めて平静な声を出してみせた。
「ああ、でも・・・、お前大丈夫か?」
大丈夫だと言う私に修平はそれでも平気かと尋ねてくるので、私は思わずほっといてよと叫んで電話を切ってしまった。
泣き声で突然電話をしておきながら何を勝手なことを言っているのだと自分でも呆れた。
何とかして家にたどり着くと、功太郎の目に失望の色が宿っていたことを思い出して改めて悲しくなった。
泣きじゃっくりをしながら私は自分の部屋をあさり、瞳を連想させるもの、瞳との記憶を思い出させるものを全て抹消したいと思った。
男の人と付き合うのには手順を踏まないと、などと思っていた自分がバカらしく思えてきた。
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