後半

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後半

その夜、僕はとある夢を見た 夢の中で、僕は泣いていて そんな僕に、白那に似た一人の少女が来てくれて 僕の頬を滴る涙を、そっと拭ってくれて 元気出そうよ 少女は僕にそう言ってくれて 僕も自分の涙を拭って そして彼女に笑顔を向けて ありがとう そう返事をして、彼女もまた笑顔を見せた所で夢が途切れた ~~~~ 「んんッ・・・」 目を覚ませばもう九時を回ったところだ いつもは七時に起きていたが、今日だけは寝坊してしまった ふと横を見ると、そこにはシロがいた シロは僕の顔をずっと見つめていて 長い間見つめていて そっと僕の頬に触れた 「・・・どうしたシロ・・・?」 シロは今度は僕の顔に自分の顔をすりつけてきた 揺れた衝撃で、僕は頬を滴る涙の感触を感じる 僕は夢を見て、泣いていたんだ シロはそれをなぐさめようとしていたのかな 「・・・」 気づくとシロはまた僕の顔を見つめていた その表情は、何だか優しそうで そして 白那の笑顔をよぎらせて 僕はそれから支度をして、シロに散歩に連れて行くことにした 周りは全て田んぼという風景の中で 一本のリードをつけながら 「・・・」 僕は今朝見た夢のことを思い出していた なぜ今にあの夢を見たのか どうして涙を流していたのか 僕はふと手にリードの感触がないことを思い出す 「わッ!!シロを離しちゃったッ!」 ワンワン・・・ ワンワン・・・ 子犬の鳴き声が目の先にある林から聞こえる 僕はその鳴き声を頼りにシロを探し回った 林の中に入ってもシロは見つけられず でもシロの鳴き声は時々聞こえて 僕はそれだけを頼りにシロを探す ワンワン・・・ あ、今こっちから聞こえた! ワンワン! 今度はこっちか! シロの声は何だか僕を呼んでいるみたいで しだいに追いかけるスピードも速くなっていって 「ハァハァハァ・・・・・あッ!」 あれから30分が経ち、ついにシロのような面影を見つけた 僕は急いでその方向にダッシュで向かう 「あれ、この方向って・・・」 林の中で上が大きく開けていて、太陽の光で輝いている場所にシロはいた 「ハァハァ・・・やっぱりか・・・」 シロの真後ろにあるのは、 『雪ヶ谷 白那』 そう書かれた小さなお墓 そのお墓は僕が毎回綺麗に掃除している、大事な人のお墓 仏壇の左右には昨日新しくお供えした百合の花と、白那が大好きだった『シロ』の写真 シロは僕をじっと見つめている 「シロ、お前・・・」 僕はふと考える もしシロが僕をここに連れてきたくて、林の中に駆け込んだのなら もしシロが白那のことを知っていたなら そして もしシロが 白那の生まれ変わりであったなら ――― 「・・・」 僕はそっとお墓の前の子犬に視線をずらす すると、シロと呼んでいたその子犬は優しい笑顔で 「いつもありがとう」 子犬の口は動いていないのに、何故かその言葉が脳裏に響いた そしてその子犬は、お墓の奥深くの林へ走り去っていった 再び林に静寂が帰ってくる 僕は春の空を仰ぎ見る 「今まで夢を見ていた気がするよ・・・・・なぁ、白那・・・」 それから白い子犬を見ることは、なかった ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ あの時脳裏に響いたあの言葉は、今も忘れずに残っている だからいつまでも、心の奥に大事に閉まっておこう それは天国の白那からのメッセージ そう、信じて おわり
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