その4

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その4

ここは桜舞ういつものあぜ道 そしてやっぱり ―― 思い出せましたか・・・?―― 彼女は私の目の前にいた 「・・・ごめん、まだ思い出せないよ。」 ―― そうですか・・・ ―― すると彼女は、ワンピースのポケットから何かを取り出した 「それは・・・?」 彼女はそれを私に見せてくれた ―― これは、私の宝物です ――― 彼女が宝物というそれは、中に写真一枚が入る程の首飾りペンダント 外の蓋を開けると中のものが見える、という仕組み ―― これは小さい時にもらったもので・・・ ―― 「あれ・・・それって・・・」 私は見覚えがある 彼女が差し出したそのペンダント たしかそれは20年くらい前の・・・ 中身はたしか・・・ 「・・・中の写真、見せてくれないか?」 すると彼女はゆっくりとこちらに歩み寄ってきた ペンダントの写真を見せるためだろう 彼女はペンダントを私の目の前に差し出すと ―― 思い出して ―― ゆっくりと、蓋を開けた 「これッ・・!」 中身を見た瞬間、記憶が急速で蘇る それはまだ妻がいた時 娘の誕生日で出かけた遊園地で マスコットキャラクターと一緒に撮った 家族の、写真――― ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ 私はゆっくりと目を開ける 横を見ると、そこには首飾りのペンダントをつけた一人の看護師の姿 ペンダントの写真は、あの夢と同じものだった 「まさか・・・」 「・・・お分かりいただけましたか、お父さん。」 いつもの彼女は、今日だけは呼び方が違っていて 呼び方が違っていて たったそれだけの事で 涙がなぜか止まらない 「私はあなたの娘、椎名 綾女です。」 20年もの間離れていた自分の娘と死ぬ直前で会うことができた かつてとは比べ物にならない程成長していて 私を泣かせる程成長していて 「今もお母さんは元気です。お母さんはあれからもお父さんのことは話さなくなったけど、私はちゃんと覚えています。」 「・・・」 「・・・だから、お父さん・・」 ―― 思い出してくれて、ありがとう ―― 娘の頬から、光の線が下へ零れ落ちた 視界が薄れていく 起きたばかりなのに 娘とせっかく会えたのに ・・・いや、違うか いつも会ってたもんな 気づかなくてごめんな こんなバカなお父さんで、ごめんな こんなお父さんを覚えていてくれて 「ありがとう、な・・・・―――― そのまま私は、息を引き取った 私がこの世に残せたもの それは私のたからもの 夢の中の彼女は 大事な娘でありまして おわり
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