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稲荷編その5
宏一郎は手水で体を清めると境内の方へ歩いていった。拝殿ではご祈願が行われているようであり、祝詞や笛の音が聞こえていた。
宏一郎はここの作法に則って、古宮にまず参り、次に命婦社、さらに本殿、最後に本殿裏にお参りした。宏一郎はその全てで新たな願をかけた。
それほど期するものがあったのだろう。
最後に商売繁盛のお札とお塩と御守りを頂いて、おみくじを引いた。ここのおみくじはタイムリーな内容で定評がある。
宏一郎は隅のベンチに腰を下ろすと、おみくじを開いた。
さて、宏一郎の一人娘、朋子は無事回復して短大の方に復帰していた。入院中の出席日数が足りなくなりそうということで随分焦っているようであった。
はやはミルクティーをひとくち口に含むと、次のノートを取り出して読み始めた。
11月1日とあった。
11月1日、また朋子は肺に穴が空いて、入院した。
キラがそのあとを続けた、
結局、手術がうまくいっていなかったということだ。
病はきっちり直さなければならない。この件に関しては我らの力も少なからず働いている。今度は腕の良い医者をつけた。女性であるが我らの目に叶うものである。
今度ははやが二日後のノートを開いて読み始めた。手術は成功した、前回手術した部分が動脈と癒着して大変だった。医者はもう絶対穴が開かないように処置を施した。
一同はほっとした顔をしていた。
はやは座り直すとこう切り出した、
実は朋子は先日学校を休学することになりました、一年間です。
宏一郎の新たな願掛けのこともありますが、緊急にお知らせしたかったのはこの事です。
はやは細かく休学に至った経緯を話した。それによると出席日数が足りないことが尾を引きさらにそれはストレスとなって朋子の精神にも異常をきたし、うつ病のようになってしまったのだ。学校側との話によって一年休学してやり直したらどうだ?という話になったらしい。留年は回避された。
そこまで話してはやはうつむいた。
キラが続けた、この件に関しては、我らが手術をもう一度やるように促したことも少なからず影響していると思われる。ご意見を伺いたい。
一の眷属、多胡は目を閉じて聞いていたが、目を閉じたままこう呟いた、
はやよ、お主はこの仕事をして何年になる?
考えたこともありませんが、200年…くらいでしょうか。
そうであろう、たかだか1年くらいどうということもないが、人の命は短いということかのう。
多胡は目を開けた、じゃが、今回の朋子の病気は何か意味がありそうじゃの。
お嬢にお伺いをたててみるとしよう、そう言って立ち上がると神殿の方に戻っていった。
次回、異形の神々に続きます。(©️2022 keizo kawahara 眷属物語)
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