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その1
僕が見る夢は、いかなる時も色がなく
僕が見る世界は、いかなる時も光がなく
色を求めて 光を求めて
僕は今日も生きていく
僕の名は前田公人
今日もただ一日、僕はこの椅子に座っていて
特別そこで何をすることもなく
ただ、座っているだけ
「はい、ご飯出来たよ。」
奥からそんな声が聞こえた
あぁ、この声は
「公人くん、今日はあなたの好きな生姜焼きだよ。」
僕の妻、美羽の声だ
「はい、ちょっと待っててね。」
そういうと美羽は、僕の右手に箸を持たせて、そのまま動かない僕の手に自分の手を添えて
生姜焼きがあるであろう皿へと、二つの手を伸ばしていく
「あッ」
僕は思わず箸を落としてしまった
せっかく手を添えてくれていたのに
手で手を支えてくれたのに
それでも美羽は、もう一度僕の手に
「はい、これ箸ね。もうちょっと頑張って。」
再び箸を僕の手に添えさせて
「あ・・ありがとう、美羽。」
「いいって・・・えへへ///」
物をつまみ、それを僕の口へと運んでいく
「どう?今日は隠し味を入れてみたの。」
口の中に広がる、お肉の味 生姜の香り
そして
「・・・砂糖、か?」
「当たり!どうかな?」
「あぁ・・・うまい。」
「ありがと!良かった!」
僕は、二十五を過ぎた頃から盲目になった
原因不明の盲目は、病名などもちろんなくて
名もないそいつは、たちまち僕の色を奪って
僕を暗闇に突き落とした
そんな僕に寄り添ってくれたのは
今となりにいる美羽だった
暗闇で彷徨さまよい、沈んでいく僕に
光を見せてくれた、そんな気がしたのだ
今は自分も働きながら、僕の事も面倒見てくれている
そんな美羽に、僕は何か返したい
美羽に手伝ってもらうごとに、そんな願望が湧き上がるのだ
美羽に頼ってばかりだから
しかし
『盲目の僕がいったい何をできるのだろうか』
その思いは、いつもここで潰ついえてしまうのだ
その夜、僕はとある夢を見る
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