その4

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その4

この日は、美羽と出かける日になった 美羽はこの頃仕事続きみたいだったから大丈夫?と聞いたけど 「いいの!公人くんに見せたいものがあるの!」 といって、今は出かける準備をしているみたい でも盲目の僕に何を見せるんだろう それが不思議で、そしてなぜか楽しみでもある 「さぁ、行くよ!」 家を出て30分程が経った 美羽に連れられて、ふと美羽の動きが止まった 「ついたよ。ここが今日の目的地。」 ついた先は、静かなとある公園のようだ 涼しい秋風が、僕の肌を優しくなでて その風は少なからず、木の葉の香りを運んでくる 「見せたいものはこっちだよ。」 美羽はさらに奥へ進んでいく 僕は美羽に連れられて、ただ草原の上を歩いていく あれ、どうして ここが草原って分かったんだ? 「これが見せたかったものだよ。」 美羽はそう言って、僕を前に連れ出した 「・・・何も見えないよ?」 僕の視界は黒のまま 美羽は何が見せたかったのか 僕には分からない その時 ――― 大丈夫、きみとくんなら見えるよ ――― 頭の中で、あの妖精の声が脳裏に響く ――― きみとくん、君の見たい色は ――― ――― もうそこさ ――― その瞬間、一気に無数の光が降り注ぐ 僕は眩しくて、思わず目を閉じた そして、目を開けると 「ッ!こ、これは・・・!」 それは、僕が見たかった色 僕が見たかったもの 美羽の好きな、いちょうの木 「美羽!見えたよ!ほら、金色で綺麗だね!」 僕は嬉しくて 見えたことが嬉しくて 美羽がいる隣を向いた 美羽も喜んでいるだろう 美羽の笑顔が見たいから しかし 「・・・えッ」 美羽は、なんだか少し寂しげだった さらに美羽の身体は、今にも消えてしまいそうなくらいに薄く見えたのだ 「美羽・・・何で薄いんだ・・・?何で宙に浮いてんだ・・・?」 その時、僕は思い出した 美羽が以前、交通事故で亡くなってしまったことを 思い出した 美羽の死に嘆き悲しんだ、あの辛い過去の夜を そして、思い出した 悲しみで、この世界が見えなくなったことを
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