その5

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その5

「ごめんね、公人くん・・・突然いなくなったりして・・・」 「・・・」 「でも、公人くんは公人くんの色を大切にしてほしいんだ。」 「私のせいで見えなくなった、あなたの色を。」 「この世界と・・・私のいない世界と、向き合って欲しいの。」 美羽の身体は、さらに薄くなっていく 身体にぼんやりと光が溜まって見えて、今にも消えてしまいそうだ しかし、美羽はその限られた時間で 僕に、メッセージを告げようとしているのだ 僕の時間は、あの日から止まっていたのかもしれない あの時から、僕は深い暗い夢の中で 美羽が亡くなり、一人という暗い世界で 暗い暗い、闇の下で でも美羽は、そんな僕を 光あふれる地上へ、戻してくれた 例え姿を幽霊に変えようと 僕のために、美羽は尽くしてくれた 僕が一度失った色を 一度僕が失った、この世界を 美羽は、また見せてくれた 「・・・ありがとう、ごめんな美羽・・・」 僕のせいで迷惑かけて、ごめんね 亡くなった後も僕を見てくれて、ありがとう 今までおつかれさまでした ゆっくり眠ってね 「・・・さよなら、美羽。」 頬に、きらりと光る数滴の雫 美羽は、僕に笑顔でこう言った ――― 私を愛してくれて、ありがとう ――― そして美羽は、身体を小さくして姿を妖精に変えると いちょうの木の奥の方へ消えて行った まるであの時の夢のように ~~~~~~~ いちょうの木は今日も金色に色付き 僕に不思議な光をくれる 美羽の方も眩しいね でも僕の方も負けないよ 僕もいっぱい輝くよ、君に負けないくらい輝くよ だから、僕のことを見守っていてね あの木の後ろのお墓にそう告げると、公人はその場を後にした おわり
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