ROOM.No.666

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 聖書の一節を引用されたのが不服だったのだろうか。その日悪魔はのべつまくなしに甘言を囁き続け、僕の集中力を阻害し続けた。 「ねーっ、あのおじさん横入りしたよ。殴り倒して席を取っちゃいなよ」 「機械のエラーなのに、どうしてあんたが責められるの? あいつ嫌い。私が消してあげよっか?」 「私ね、地上の富すべてをあんたに差し出せるだけの力を持ってるの。あんたが私にひれ伏すなら、一生遊んで暮らせるようにしてあげるんだけどな!」 「退け、サタン」帰宅するなり僕は言った。そして猫を突きつけてやった。  電光石火、悪魔は冷蔵庫の上に逃れた。そして口の端をぎこちなく吊り上げる。  悪魔の嘲笑は、てんでなってない。 「そ──そんなんじゃ私は追い払えないもん。知らないんだ、悪魔の消し方。教えてあげよっか?」 「是非とも拝聴したいな」抑揚のない声で、僕は言った。 「人間を正しい道に導いた時、悪魔は死ぬの。魔族の理に背いた罰でね──覚えた?」 「忘れた」  膨れっ面をする悪魔に、僕は追い討ちをかける。 「あ、そこ。ゴキブリが這ってる」  数分後、失神から覚めた悪魔は、開口一番に叫んだ。 「このバカ! 意地悪! 悪魔!」  カビの生えたボケにつき合っている暇はない。なおも罵り続ける悪魔を尻目に、僕は湯を沸かす。今夜もカップ焼きそばだ。  きちんとご飯を食べなさいよ。  家を出た日の、母の言葉が脳裏に蘇る。
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