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「よし、がんばるね。私」
「期待してるよ」
そう微笑んだ湊の瞳の奥に、一瞬不穏な何かを感じる。
(気のせい?)
「日南? 行くよ」
「うん……って、どこの病院なの?」
「今日は病院じゃないんだ」
「え? でもお父さま入院してるって」
「それが、婚約者と会いに行くって言ったら、病院で会うわけにはいかないからって、そこのホテルまで来てるんだ」
湊が指差したのは待ち合わせ場所の裏にある有名なホテル。
一度だけアフタヌーンティーを飲みに杏子ちゃんと言ったけれど、恐れ多くて心が落ち着かなかったことだけ覚えている。
(確かにあのホテルに行くなら、これくらいの格好しててもいいかも)
「体調は大丈夫なの?」
「ああ、今は落ち着いてるらしい。意地っ張りな人だから、あんまり病気に触れないでやってもらってもいい?」
「うん、わかった」
(前から思っていたけど、結構荘厳な感じのお父さまなのかな?)
確かに湊みたいに完璧な息子を持つ両親って、立派な感じの人な気はする。
直通の通路を湊と通り抜けて、ホテルに足を踏み入れた。
あと少しで、私の人生が狂うとも知らずに――
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