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「父さん」
「……遅かったな。その女性は?」
「お話ししていた婚約者ですよ」
「初めまして……花咲日南と申します」
「まあ、思っていたより随分お若いのね」
「ええ、大学生ですから」
(あ、あれ?)
喜んでくれると思っていたお父さまは、なぜか厳しい顔つきで私を見下ろしている。
当たり前だけど湊とそっくりで、ダンディなおじさまといった見た目だ。
病気のことは悟られないようにしているのか、その威圧感からは大病を患っていることは想像もつかない。
「……それで? この娘にどれほどの価値がある」
(価値!?)
「父さん、何を言い出すんですか。常々、おっしゃっていたはずです。金で買えないものがこの世に1つだけある。それは愛だと」
(愛!?)
想像していたものとは全く違う会話。
突然始まった壮大な話に、戸惑いが表情に出ないようにするのに精一杯だ。
「まぁ、つまりそれって……!」
「お前が、この娘を愛しているということか」
「もちろんですよ、父さん」
嬉しそうにするお母さまの隣で、疑うようにお父さまが私たちを見比べる。
そしてその鋭い眼差しが、私を矢の如く射抜いた。
「娘、湊を愛しているのか」
「あっ……愛してます!」
(声、裏返った!! 恥ずかしい!)
愛してるなんて言葉にしたのは初めてで、一気に顔が赤くなっていくのがわかる。
いきなり愛してるのかと尋ねるなんて、なんて情熱的な家族なんだ。
「ふふ、顔を真っ赤にして初々しい。可愛らしいお嬢さんね」
「ええ。僕も彼女のこの純粋さに惹かれたんです」
「……」
すっかり信じた様子のお母さまに比べ、お父さまは再び無言で私たちを見比べた。
そして腕を組むと、静かに語り始める。
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