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「常々、お前には言い聞かせていたな。愛こそ全てだと」
「はい」
(あ、愛こそ全て……)
「お前は私同様、ゆくゆくは何万人もの生活を支える身。その重圧に耐え、癒されるためには愛する妻の存在が不可欠」
「仰るとおりです」
(な、何万人もの生活……?)
「だがお前は昔から愛をぞんざいに扱うきらいがあった。特定の女を作らず、見合い相手も適当にあしらう始末」
「高校時代に連れてきた彼女の名前さえ、覚えてなかったものねぇ……」
(特定の女を作らず……? 見合い相手を適当に……?)
なんのことかさっぱりわからない。
頭がうまく情報を処理しなくて、ただ目の前で繰り広げられる会話を聞くことしかできない。
「湊……私が何を言いたいかわかるか?」
「そうですね。では、見ていてください」
何を理解したのか、湊は私と向き合う体制になる。
(わ、近……っ)
思わず身を引きそうになるけれど、湊はそれを許さない。
腰に腕が回ったかと思うと、ぐっと力強く引き寄せられた。
「っ……」
息を詰めた私を、湊が甘い瞳で捕らえる。
まるで本当に愛おしむような優しい眼差しに、体の力が抜けてしまいそうになる。
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