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嵐の前の恋わずらい
それから杏子ちゃんと作戦を練ったり、湊と恋人らしいデートの真似事をしてみたり、そうこうしている間にあっという間に週末になった。
あの日から心臓が何度も壊れるんじゃないかと心配になったけれど、ゆっくりと距離を縮めてくれる湊のお陰で、自然と寄り添えるようになったんじゃないかと思う。
(湊のお父さまが喜んでくれると良いな……)
嘘を吐くことは心苦しいけれど、世の中には優しい嘘もある。
思いやりで包まれた嘘なら、それはもう真だ。
「よし、これでいいかな」
持っている服の中での一張羅。
湊と並ぶとちょっと子供っぽいかもしれないけれど、これが私にできる精いっぱいだ。
従姉の結婚式で着た白レースのワンピースに身を包んで、マンションを出る。
天気は良くて、快晴。
もう秋だっていうのに、ジリジリと照りつける太陽が少しだけ憎い。
(あんまり汗かかないようにしなきゃ)
駅までなるべく影を通って待ち合わせ場所へ向かう。
人気ドラマで待ち合わせ場所として使われて有名なそこでの待ち合わせは、正直ちょっとだけ胸が躍る。
何駅か電車に揺られ、駅から直通の動く歩道に乗っていくと、すでに時計広場に到着している湊の姿が見えた。
「待たせちゃったかな」
近くまで小走りで駆けていくと、気遣うように腰に手を添えられる。
「時間なら大丈夫だよ。走らせちゃってごめんな」
「ううん、平気。お父さまは? もう待ってるかな?」
「実は父との待ち合わせにはまだ時間があるんだ。時間までに、ちょっと準備をしたくて」
「準備?」
「そう。俺の婚約者をさらに可愛くする準備」
「え?」
どういうことかわからなくて戸惑う私に、湊が微笑む。
「行こう」
手を差し出されて握ると、自然と指を絡められる。
慣れたと思っていたけれど、やっぱり緊張してしまう。
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