魔王編 エイタ

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魔王編 エイタ

 炎、氷、雷、岩、風。あらゆる弾丸が魔王オウマを叩く。  しかし魔王も魔法で結界を張り、これに対抗する。 「どうした、勇者! こんな豆鉄砲で魔王たる我を倒すつもりか!」 「そう言う割には、けっこう辛そうじゃねーか!」  オレは更に『ファイアーボール』を『無詠唱発動(スペルキャンセル)』で三回発動させ、魔王に撃ち込む。  『超自動回復(ハイリジェネーション)』のユニークスキルも持つオレにとって、Cランク魔法の消費などあってないようなものだ。  だから何発でも何百発でも撃ちこんでやる。 「ぐっ……」  魔法弾の雨霰に晒され、オウマが一歩、二歩と後退する。 「今だ!」  オレの合図で剣士のソーニャが斬り込む。 「はああああっ!」  気迫の叫びを上げ、全力の剣がオウマを捉える。振り下ろす剣撃は魔王を袈裟切りにし、大きな太刀傷を付けた。 「まだまだぁ!」  さらにソーニャが追撃する。次は胴を両断しようと剣を横薙ぎに振る。 「ぐうっ!」  しかし、それはオウマが許さず、後退してかわす。  オウマは自身の剣を握り、ソーニャに振り下ろそうとするが、それはオレが許さない。 「甘いぜ!」  オレは飛び上がり、聖剣を振り下ろす。  落下速度と体重を乗せた縦一閃がオウマを両断……出来ない。持ち上げた剣で受け止められる。 「聖剣ラグナカリバー……。それだけは受けるわけにはいかん!」  聖剣の力は闇の王といえど、致命的なダメージを受ける。それを知るオウマは魔法やソーニャの剣はあえて受けても、聖剣だけは徹底して回避している。  故に決め手に欠ける戦いは、長期戦となっていた。 「神よ、彼の者に粛清を。聖なる力を以って闇を祓い、我らに祝福を! 『神罰執行(ホーリー・ジャッジメント)』!」  神官クレリアが祈りを奉げ、奇跡を行使する。  光の十字架が複数形成され、オウマ目掛けて降り注ぎ神罰を与えようとする。 「忌々しいっ!」  黒き身体に魔力が溢れ、左手で結界を張り己を守る。降り注ぐ十字架は黒い魔力に阻害され、魔王の身体に傷を付けることができない。 「足元ががら空きだぜ!」  『サンダーボール』を『無詠唱発動(スペルキャンセル)』で発動する。今度は十発。そして更に発動を続け、オウマの動きを封じる。 「クレリア、このまま続けるぞ! メイベル頼む!」 「はい! エイタさん!」  オレの雷球とクレリアの十字架が魔王の足を止める。その間に狙うのは、魔法使いメイベルの最大威力の魔法だ。 「其れは雲を引き裂き大地を砕く、神の怒り。世界の理は崩壊し、新たな秩序が支配する。破壊と創造、絶望と希望。堕ちよ、極限の一撃 『古崩隕石(エンシェントメテオ)』!」  メイベル最強の古代魔法。オレの竜王魔法に並ぶ禁忌の力。  しかし、魔力消費がデカくメイベルの魔力量では発動までに時間がかかるのが難点だ。  だが、オレ達がいる。  こうやって魔王の気をそらし、魔力を削り、足を止める。  そうしたら、ほら――。  巨大な隕石が炎と共に落下し、オウマを直撃する!  大爆発。  爆風と轟音が辺りを支配する。オレ達はその圧倒的な衝撃に耐える。 「……やったか?」  あれだけの威力だ。魔王といえど、無事な筈は……。  砂煙が晴れる。  黒い影が、姿を現した。 「嘘……だろ……?」  魔王は健在。  爆発の中心部に仁王立ちしている。  流石に無傷ではないが、古代魔法にすら耐えるとは……。 「今のは、少し効いたぞ……。勇者エイタ……」  剣で受けた傷も、古代魔法によるダメージすら瞬時に塞がっていく。 「ちっ、やるじゃねぇか……」  あの古代魔法を受けても立っているなんて、なんて耐久力だ。 「ならオレも切り札を使わせてもらう!」  聖剣を両手で握り、魔力を込める。 「何をするつもりだ、竜王魔法ですら我を倒すことはできぬぞ」 「いや、魔法じゃない」  まっすぐ、魔王を見つめる。 「オウマ、お前、聖剣がただの良く切れるだけの剣だと思っていないか?」 「なに?」 「聖剣の真の力はな……。みんなの想いを束ねることが出来る、希望の剣なんだ」 「なん……だと……?」 「皆の力、オレに貸してくれ――!」 「はい! 私の力、全てエイタさんに!」 「ふふっ、エイタくん、しくじるなよ!」 「やっちまえ、エイタ!」  みんなの“力”がオレを通じて聖剣に集まる。  眩い光が聖剣を包み、そして増大していく――! 「な、なんだこの光は……!」 「わからないのかオウマ! これが……人の心だ!」 「心だと!? そんなものが、我を消すというのか! ふざけるな!」  オウマが剣を振り上げ、一歩前に出る。  しかし、光が、熱が。それ以上の前進を許さない。 「馬鹿な、近づく事もできんだと……おのれ、勇者! おのれ、聖剣!」  最大限まで増大した聖剣の光を束ね、魔王を目掛けて解き放つ! 「これで終わりだ! 『エターナル・フォトン・ストライク』!!」  聖剣を振り下ろすと、極大の光の束が剣から放たれる。 「うおおおぉぉぉ!」  オウマは回避を諦め、最大魔力で結界を展開し、これに耐えようとする。 「そんな、ばかなあああああ!!」  しかしオレ達の力と想いを乗せた光波は、闇の盾で止まることなく突き破り、砕きながら尚勢いは削がれることなく、魔王へ直進する。  光がオウマを飲み込み、その身体を手足から徐々に粒子へと変え、浄化していく。 「我の身体が……消える……。そうか、これが……、この光こそが……。我の……求め…………」  光に包まれ消えゆくオウマの顔は、何故か満ち足りているように見えた。  魔王は倒れ、魔王城もまた崩れ落ちた。  空を覆っていた厚い雲は晴れ、オレ達が勝った事を知らせてくれた。
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