百円玉拾った

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百円玉拾った

 今、僕の右手には、百円玉が握られている。  小学校からの帰り道にあるコンビニの脇にある、古ぼけた自動販売機。  その日僕はいつものように、その自動販売機のお釣りの取り出し口に手を突っ込んだ。  その結果僕の手に触れたのは、銀色に輝く百円玉。  十円玉くらいならしばしば取り忘れていったものが残っていたりするのだが、百円玉が入っていたことは未だかつて無かった。  さて、この百円玉をどうしようか。  僕は自分の持てる知能の全てを動員してこの百円玉の使い道を思案する。  そう、何たって百円玉なのだ。  真っ先に思いついたのは、今流行りのカブトムシやらクワガタやらを戦わせるアーケードゲームをしようというものだ。  しかしそんなことをすればこの百円玉は一挙に消え去ってしまうし、手元に残るのがカード1枚ではいささか勿体無いというような気もする。  では小学校の裏手にある駄菓子屋に行くというのはどうか。  これは名案のように思えた。  百円も持っていれば、駄菓子などいくらでも買えてしまう。  しかし僕は瞬時に思い至る。  百円分の駄菓子なんて、とてもズボンのポケットには収まらない。  もしこのまま駄菓子を買ってしまえば、帰り道で友達に、いや、家に帰ればお母さんに、間違いなく僕がお金を拾ったことがバレてしまう。  これは良くない。  何故ならこの百円玉は、僕が働いて稼いだお金でも、お母さんからもらったお小遣いでもないからだ。  人のお金を盗むのは、泥棒だ。  泥棒は、いけないことだ。  そう考えると、なんだか急に怖くなってしまった。  お金を拾ったら、交番に届ける。  やっぱりそうするべきか。  でももし交番にいるお巡りさんに、僕がこの百円玉を盗んだと疑われたら。  いつの間にか僕の頭の中は恐怖でいっぱいになってしまった。  ついさっきまで黄金のように見えていた百円玉が、今や呪いのお札のように思えていた。  僕はどうしたらこの罪から逃れられるのだろう。
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