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帰り道、アスファルトの中に銀色の光を見つけた俺は、それを拾い上げていた。
それはどうやら百円玉のようだった。
これはなんともラッキーだ。
しかしまぁ、たった百円ぽっちでは、缶コーヒーも買えやしない。
どうしたものかと手の中の百円玉を弄びながら考えていると、昔似たようなことがあったなと思い出した。
そういえば、場所もちょうどこの辺りだった。
あのコンビニは数年前に潰れてしまい、今その建物は歯医者になっている。
あの自動販売機も、そのときに撤去されてしまった。
子供の頃は輝いて見えた百円玉も、今となっては単なる百円。
それ以上でも、それ以下でもない。
ぼんやりと考えていると、ふと頭の中に疑問が浮かんだ。
あの百円玉、結局どうなったんだっけ。
確かあのとき、急に怖くなって…。
どうにもその先が思い出せない。
まぁ、どうせ駄菓子か何か買ったのだろう。
思考を放棄して歩き出そうとしたところで、はたと気付く。
そういえば今日は母の日じゃないか。
俺は少し回り道をして、近所の雑貨屋に寄って帰った。
そうして家に帰ると、俺は母に小さな包みを渡した。
母は髪を結んでいる古ぼけた安物のヘアゴムを撫でながら、ありがとうと言った。
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