百円玉拾った

2/2
前へ
/2ページ
次へ
 帰り道、アスファルトの中に銀色の光を見つけた俺は、それを拾い上げていた。  それはどうやら百円玉のようだった。  これはなんともラッキーだ。  しかしまぁ、たった百円ぽっちでは、缶コーヒーも買えやしない。  どうしたものかと手の中の百円玉を弄びながら考えていると、昔似たようなことがあったなと思い出した。  そういえば、場所もちょうどこの辺りだった。  あのコンビニは数年前に潰れてしまい、今その建物は歯医者になっている。  あの自動販売機も、そのときに撤去されてしまった。  子供の頃は輝いて見えた百円玉も、今となっては単なる百円。  それ以上でも、それ以下でもない。  ぼんやりと考えていると、ふと頭の中に疑問が浮かんだ。  あの百円玉、結局どうなったんだっけ。  確かあのとき、急に怖くなって…。  どうにもその先が思い出せない。  まぁ、どうせ駄菓子か何か買ったのだろう。  思考を放棄して歩き出そうとしたところで、はたと気付く。  そういえば今日は母の日じゃないか。  俺は少し回り道をして、近所の雑貨屋に寄って帰った。  そうして家に帰ると、俺は母に小さな包みを渡した。  母は髪を結んでいる古ぼけた安物のヘアゴムを撫でながら、ありがとうと言った。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加