愛の対価も好きずき

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「ーーなぜ金持ちと貧乏人の格差が埋まらないか知っているかい?」 富士原(ふじわら)は天井に煙草の煙を吐きながら言った。(ひかる)は目を閉じたまま「ん・・」とだけ返した。 「金持ちは先に長期的で大量の労働を頭の中でやってるんだ。でも、貧乏人はそれが出来ないからずっと貧乏のまま。もちろん、需要が無くなれば金持ちも労働の対価を得られなくなるが、その時は、金持ちも貧乏人に転換するんだ」 「好きだね、そういう話・・」 洸は軽く溜め息を吐き出すと、富士原に背中を向ける形で横向きに寝直した。 「でも、洸がこうして仕事もせずに俺と一緒に居れるのも俺が金持ちだからってのは理解してるよな?」 「それはわかってるよ」 洸は身体を起こし、枕元に置いている煙草に手を伸ばした。口にそれを咥えると、富士原はライターを差し出し火を着けた。 「ありがと。ただ、もし僕が働くって言ってもさせないでしょ?」 「そんなことはないさ。ただ、俺は洸が苦しんでいる姿を見たくないだけさ。働くことに苦労は付き物だが、時に幸せも与えてくれる。だが、生活の余裕さえあればどんな苦労もちっぽけに感じられる。俺は洸の幸せの前提の存在で居続けられさえすれば、洸が何をしようが構わない」 「じゃあ、僕がもし浮気したらどうする?僕が幸せだったら良いんでしょ?」 「言っただろ?俺は洸の幸せの前提の存在であればそれでいい、と。俺が居なくてもその幸せが成立したらダメだが、その浮気から得られる幸せの前提に俺が居られたらそれはそれで構わない。俺の変な性癖みたいなものかもしれないが、それほどまでに洸の存在は俺にとって特別なんだ」 「ふーん・・、何だか寂しくなる解答だね。もっと「俺が一番じゃないとダメだっ」みたいなこと言ってくるのかと思ったら」 「表面的なことと本質的なことは違うってことさ」
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