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Sleeping Rose 5-2
未来たちは心おきなく好きなものを食べると、デザートに手をつけはじめた。
「よく食べたなあ」
清人がコーヒーを飲みながら腹をさする。
「美味しかったけど、やっぱり家のご飯のほうがいいな」
飛鳥がぶどうを口のなかに押し込みながら言う。
「今度コンベクションで茶碗蒸しを作るよ」
飛鳥は清人が新しい家電製品を買うごとに文句を言っていたが、今では家族のなかで一番コンベクションを気に入っている。
「今度佐羽さんも家にご飯を食べに来て」
「楽しみにしてます」
飛鳥と佐羽が紅茶を飲みながら話しているのを見て、未来は心から安堵した。
自分の家族を母に紹介できてよかったと思った。
「そういえば、相続について考えてくれた?」
「未来と話し合って、飛鳥と百合に半分ずつ相続させてもらいたいという話になりました。それでいいですか?」
「いいですよ。ありがとう、清人くん、未来」
「あれ、百合がいない」
飛鳥が未来の隣りの空席を指差した。トイレかな、と清人が首を傾げる。
「探してくる」
未来が席を立った。そのあとを佐羽がついてくる。
未来はビュッフェのテーブルを探し、佐羽はトイレを探すことにした。未来が料理の並ぶビュッフェのテーブルをぐるりと回る。
デザートブースで子供の悲鳴がした。
「百合!」
百合はチョコレートファウンテンの前にいた。チョコレートにまみれた右手を押さえて顔を歪めている。
「ファウンテンの底に手を突っ込んで、やけどしたみたいです」
百合の傍らに手をついていた若い女性が、未来へ素早く状況を説明した。
「私、ホテルの人を呼んできます」
「お母さん」
百合が未来の顔を見て、緊張の糸が切れたように泣き始める。
「お母さん、いたいよ」
「ああ、ごめんな、百合。チョコレートファウンテンに来たかったんだね」
「ごめんなさい、お母さん」
見物人が差し出してくれたおしぼりで、百合の手のチョコレートを拭う。
「親父のくせに、お母さんだってよ」
遠くで誰かが嘲笑する声がした。
「どうせオメガだろ」
百合の手を拭っていた未来の手が止まる。
「お母さん!」
佐羽に怒鳴られて、未来はハッと我に返った。佐羽が未来のバッグを手にして立っている。
「言いたい人には、言わせておけばいいのよ。さあ、百合の手を拭いて」
レストランのスタッフが氷水の入った寸胴とタオルを手にやってくる。
未来が百合の手を寸胴の氷水に浸けた。百合がぐずぐずと泣きながら、痛いと言う。
「しばらく冷やしたら、病院へ行こう」
未来は佐羽の話に気を取られて、百合を見失ってしまったことを後悔した。氷水で刺すように手が痛いだろうに、百合は口元を曲げて泣かないよう我慢している。
清人と飛鳥がやってくる。清人はようすを見に来たレストランの支配人と頭を下げ合った。
レストランの支配人に最寄りの病院の場所を聞くと、未来たちは百合を着替えさせたあとで病院へ向かった。
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