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Sleeping Rose 1-4
未来はプリンを食べ終えて食卓を片付けると、風呂へ入った。湯船のなかでひとつため息をつく。
母親と会うことが憂鬱だった。
父親と母親が別居したのは、彼らが悪いのではなくて、アルファとオメガの生理がおかしいからだ。そう思っても、母親と顔を合わせる気にはなれなかった。いまさら何を話していいのかわからなかった。
優しかった父親と、几帳面でしっかりした母親。母は未来を憎んでいても、未来の食事だけは作ってくれていた。
母親は子供のおやつを毎日手作りで用意する人だった。便利な家電製品などなくても、母は毎日手の込んだ食事を作ってくれた。自分が当然と思っていたことが、母の努力の上に成り立っていたのだと、未来は飛鳥をひとりで育てるようになってから気づいた。母には母の葛藤があったのだと、未来はようやく思えるようになった。
自分には精神の欠けた部分がある。未来は両親を憎んだことはないが、それは自分の精神のどこかに麻痺した部分があるからだと思っていた。
アルファの父親は、魂の番を見つけたという理由で、母と自分をあっけなく捨てた。優しかった父親をそこまで変えてしまう、魂の番とは何だろうと思った。家族の絆は夫婦で努力して築き上げていくものではないだろうか。それを一瞬で崩してしまう本能、あるいは直感とはいったい何だろう、と。
未来はいまだに清人を魂の番だと実感できなかった。清人に罪悪感を覚えることもあったが、自分は本能よりも自分の意志で清人を選んだのだと、そう思ってきた。
それでも心のなかの自分が囁く。お前は心が欠けているから、父親も母親も清人も本当に信じることができないのだと。
未来は光を反射して揺れる水面に、じっと目を落とした。
自分の心は欠けていない。自分は自分の意志で清人を選んだのだ。
だから母親も、自分の意志でふたたび信じることができるようになるかもしれない。
未来は天井の蛍光灯を見上げて目を細めた。
いまの自分には清人がいる。もし自分が母親とうまくいかなくても、清人は未来の出した結論を受け入れてくれるだろう。
未来はいちど母親と会ってみようと、湯船に揺らめく光を目で追いながら思った。
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