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疑問がわいたら即行動の秋哉が立って行って、春一の部屋のドアをドンドンと叩く。
「ナツキー、どうしたー」
さっきまで食っていたプリンを左手に持ち、スプーンを咥えたままだから、どこか緊張感がない。
しかし、
「待ってろって言っただろう!」
部屋の奥から怒鳴り声をあげる夏樹に、ビクリとすくみ上がる。
ドアを叩く手もピタリと止まった。
とっさに何かを悟った冬依が立ち上がり、パタパタと駆け出し、
「え? どうしたの冬依くん」
おろおろ鈴音に何も言わず、春一の部屋の前に何かを持って戻ってくる。
「冬依くん、それって……」
鈴音は顔色を変えた。
冬依は、
「夏兄、開けて。救急箱を持ってきたよ」
部屋のドアをノックしながら、
「春兄が怪我をしたんでしょ。隠そうたって鈴ちゃんに心配かけるだけだよ」
「なっるほど。やっぱ頭いーなトーイ」
脳天気な秋哉に、冬依はちょっとイヤな顔をする。
「秋兄、ちゃんと考えて。春兄と夏兄がやられて帰ってきたんだよ。そんなの生半可な敵じゃない」
秋哉の眼前に指先を突きつける。
「次はボクたちの番なんだからね。ボクがだまし討ちするから、秋兄は頑張ってオトリになってよ」
「お、おお……」
もちろん兄たちがやられて黙っていられる自分たちではないが、さっそく報復を考えるところは、さすが冬依だ。
しかも正々堂々とだまし討ち宣言。
その上、秋哉の役割は、きっぱりオトリ。
元より兄たちが敵わなかった相手に、自分たちが真っ当に向かっても敵うわけないが、それでも卑怯なことをしてまで勝ちたいとも思わない。
それに何より、信じられないのだ。
「なあ、ハルたちをやったのって本当に人間なのか? どっかの動物園から逃げ出したライオンとかゴリラなんじゃねぇ」
その方がよっぽど納得出来る。
秋哉の中では、兄たちは完全無敵の最強コンビだ。
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