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ギャーギャーと騒ぐ春一と秋哉。
鈴音は、
「うるさいねー、びっくりしちゃうねー潤」
と潤をあやしながら席を立つ。
表情も変えない。
慣れたものだ。
夏樹は、裸の秋哉と抱きついていたせいか、まだ手のひらで頬を覆って恥ずかしがっているカズエに目をやって、
「ごめんね、騒がしくって」
とっておきの微笑みを浮かべてカズエに向ける。
「どう? 秋が元に戻ってホッとした?」
と、カズエは、
「いいえ残念です」
「残念?」
「もう少し、あのアキと一緒にいたかった」
手の中に記憶として残る、プクプクした秋哉を思い出しているらしい。
「可愛かったのに」
夏樹はククッと笑って、
「よく食ってよく出してよく寝て。まあ育てやすい子どもだよな秋は」
「ええ、トイレに付き添ったりも初めてでしたけど、拭いてってお尻突きだしてくる様なんか、もう可愛くって」
秋哉が聞いたら憤死しそうなことをカズエは言う。
夏樹は吹き出しそうになるのを何とか堪えて、
「まあ、それは秋には黙っててやって。あいつ落ち込んじまうから」
カズエは、
「ええ、いい練習をさせてもらったと思ってます」
「練習?」
「はい。私、きっとすぐにこの家に帰ってきますから。その時のための予行練習になりました」
元気にガッツポーズを作りながら言うカズエがとても頼もしい。
そういえば自衛隊員は、結婚しても単身赴任が多いらしい。
あちこち転勤して歩くのに、子どもを連れてはちょっと厳しいからだ。
もしも秋哉がそうなったら、カズエは、春一や鈴音や潤と、この家で暮らすのだろうか。
「……なるほど」
夏樹は、
「じゃあ俺も、この家に部屋を残しといてもらうことにするわ」
カズエの照れくさそうな顔に、新しい家族の形を見た。
――了――
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