97人が本棚に入れています
本棚に追加
/228ページ
「静かにしろって言ってるだろう」
春一の部屋のドアが開いた。
「ナツキ」
「夏兄」
部屋から出てきた夏樹は、心配そうに見上げる弟ふたりの顔を見ても、表情を変えない。
眉間に深い皺を刻んだままだ。
「春兄、どうしたの?」
心配そうに聞く冬依に、夏樹は、
「春は別に怪我したわけじゃねぇよ。だから救急箱はいらない」
ぽんと頭の上に手のひらを置く。
やはりさっきの連行される犯人みたいだったのは春一だ。
でも、怪我でなければ、何だって顔を隠す必要がある?
首を傾げる秋哉だったが、ふと、自分を見つめている夏樹に気づいた。
マジマジと、真剣な目で見下ろしてくる。
「お、おお? なんだ?」
いくら実弟といえど、熱視線を注がれると火傷しそうになるのが夏樹の眼差し。
その眼差しは兄弟随一に色っぽい。
夏樹はボソリと、
「春が戦ったのはオオカミだ」
「へ?」
「ほ?」
「ライオンでもゴリラでもねぇ。あれはきっとオオカミだったんだ」
「……へ?」
「……ほ?」
さっぱり意味がわからない。
最初のコメントを投稿しよう!