いつもの日常

1/4
96人が本棚に入れています
本棚に追加
/228ページ

いつもの日常

春一が煙のあがったビルから子どもを救出して出て来ると、 「わあーっ!」 歓声があがった。 即座に消防隊に取り囲まれ、肩から毛布をかけられ事情を聞かれる春一に、夏樹が足早に近づいてくる。 「まったく、無茶ばっかしてんじゃねーよ」 さすがに焦った顔で、 「鈴音から電話をもらって、肝が冷えたぜ」 夏樹は悪態をつく。 春一は、 「すまない。でも俺は大丈夫だから」 照れくさそうに笑った。 実際、少し火傷した程度で、たいした怪我はしていない。 救急車を断って毛布も消防隊に返してしまってから、キョロキョロと辺りを見回すと、 「鈴音と潤はどこにいる?」 一緒にいたはずのふたりの姿を探した。 夏樹は口をつぐむと唇をひん曲げて、 「あっちにいる」 夏樹と同じ先に視線を向ければ、潤を抱いた鈴音が顔を強ばらせて立っている。 「――鈴音」 ホッとしてそちらへ向かおうとするが、鈴音はビクリと身をすくめた。 「?」 どうしたんだろう。 あちこち焦げて、服を汚してしまったせいか? 煤だらけの自分を見下ろす春一の肩を、夏樹が掴む。 「さっきまで潤が泣いて大変だったんだ。今はそっとしとけ」 「……泣いて?」 「ああ、春が後先考えず火の中に飛び込んじまうもんだから、鈴音がパニックになって俺に電話を寄越した。駆けつけた時には潤まで癇癪を起こして大変だったんだ。今はやっと落ち着いて眠ったとこだ。少しそっとしておいてやれ」
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!