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いつもの日常
春一が煙のあがったビルから子どもを救出して出て来ると、
「わあーっ!」
歓声があがった。
即座に消防隊に取り囲まれ、肩から毛布をかけられ事情を聞かれる春一に、夏樹が足早に近づいてくる。
「まったく、無茶ばっかしてんじゃねーよ」
さすがに焦った顔で、
「鈴音から電話をもらって、肝が冷えたぜ」
夏樹は悪態をつく。
春一は、
「すまない。でも俺は大丈夫だから」
照れくさそうに笑った。
実際、少し火傷した程度で、たいした怪我はしていない。
救急車を断って毛布も消防隊に返してしまってから、キョロキョロと辺りを見回すと、
「鈴音と潤はどこにいる?」
一緒にいたはずのふたりの姿を探した。
夏樹は口をつぐむと唇をひん曲げて、
「あっちにいる」
夏樹と同じ先に視線を向ければ、潤を抱いた鈴音が顔を強ばらせて立っている。
「――鈴音」
ホッとしてそちらへ向かおうとするが、鈴音はビクリと身をすくめた。
「?」
どうしたんだろう。
あちこち焦げて、服を汚してしまったせいか?
煤だらけの自分を見下ろす春一の肩を、夏樹が掴む。
「さっきまで潤が泣いて大変だったんだ。今はそっとしとけ」
「……泣いて?」
「ああ、春が後先考えず火の中に飛び込んじまうもんだから、鈴音がパニックになって俺に電話を寄越した。駆けつけた時には潤まで癇癪を起こして大変だったんだ。今はやっと落ち着いて眠ったとこだ。少しそっとしておいてやれ」
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