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夏樹は、
「それから潤――」
と言いながら、ハンドルを切った。
声にうながされて運転席を向けば、夏樹は、窓から差し込む陽の光を横顔にまともに受けて、眩しそうに目をすがめていた。
そんな顔は、ハッとするほど男っぽくて、そして色っぽい。
潤の胸が、思わず大きく鳴る。
スラリと通った鼻梁に薄く引かれた赤い唇。
ビスクドールのように整った夏樹の顔は、とても中年と呼ばれる年代の男性には見えない。
こんな男、他のどこを探してもいない。
いるわけがない。
でも夏樹は、潤の叔父さんなのだ。
だけど、世の中の『オジサン』という名の響きから、これほど遠い人もいないと潤は思う。
夏樹は、ずっと昔から潤の王子様だった。
ピンチの時にはいつも真っ先に駆けつけてくれる、潤だけの王子様。
夏樹は、
「潤が春の匂いを気持ち悪いと感じるのは、別におかしなことじゃない。女の子はそれなりの年齢になると、親とか兄弟とか、遺伝子が近い人間の匂いを本能的に避けるようになるんだ」
夏樹が何気なく口にした『女の子』という単語に、潤はピクリと反応する。
夏樹がいつまでも『王子様』なように、潤はいつまでも夏樹にとっては『女の子』のまま。
子どものままで、それはもうずっと変えられない。
夏樹は、
「潤には男兄弟がいないからな。余計に春の匂いを敏感に感じるんだろう。別にケンカのせいじゃない。潤がイライラするのも自然なことだ」
「自然なこと……」
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