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潤は、
『本能が避ける匂いって何だろう』
と思い、試しに自分をくんくんと嗅いでみた。
そんな潤を夏樹はおかしそうに笑い、
「嗅いだって、自分の匂いなんてわかんねーよ」
潤は、今度は顔ごとグイと寄せ、夏樹の脇の辺りを嗅いでみた。
夏樹は身を捩って避けようとしたが、でも車の運転中では思うようにいかず、結局逃げることもできずに、
「……もうよせ」
そう言われるまで、潤に存分に匂いを嗅がせてくれた。
そして結局、
「夏樹ちゃんはいい匂いがするよね」
潤はそう結論づける。
夏樹は小さな頃から、潤の一番側にいてくれた人だ。
本能が遺伝子の近い人間を避けようとするのなら、夏樹のことも不快に感じて当り前のはずなのに、何故だか、逆にいつまでもくっついていたい、嗅いでいたいと思う匂いがした。
「……なんでだろう。夏樹ちゃんは私の叔父さんなのに」
それから潤は、ついでのように、
「ねぇ、夏樹ちゃんは誰かと結婚しないの?」
聞く。
夏樹は……、
大きなため息を吐き出した。
そして、
「俺を、誰だと思ってんだ潤」
ちょっと笑いながら言って一瞬潤の方を見たが、その時逆光のせいで、夏樹の顔はよく見えない。
「……夏樹ちゃん」
夏樹は、さりげなく潤から目を逸らすと、
「さくらちゃんには、今度俺の写真を送っとけ」
そう言って、胸ポケットからサングラスを出して顔にかけ、すべての表情を潤から隠してしまった。
――了――
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