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春一と鈴音
「イテテ……」
春一が思わず漏らした呻きに、
「あっごめんなさい」
鈴音はビクッと反応する。
「やっぱり今からでも病院に」
「大げさだよ鈴音」
消毒液を握りしめながら泣きそうな顔になる鈴音に、春一は苦笑いする。
ついさっき、後ろから走って来た暴走自転車に押されて、鈴音は思わずベビーカーから手を離してしまった。
手から離れたベビーカーは、潤を乗せたまま赤信号の交差点に突っ込んで――。
「あっ!」
と思った時には春一が引っ張り戻していた。
ホッと息を吐いたはいいが、今度は鈴音の方がバランスを崩して、車道によろめき出てしまう。
軽い貧血を起こしたのだ。
こちらも助けようと春一は腕を伸ばしてくれるが、春一の左肩は自由に動かせない。
とっさに間に合わないと悟った春一は、それでもなんとか鈴音の洋服の裾を掴み、己の全体重をかけて手前に引き寄せる。
逆に自分が車道側に転がり出てしまった。
道路にはみ出した春一の頭のすぐ脇を、車が猛スピードで走り抜けていく。
「キャアッ春さん!」
鈴音は悲鳴をあげて、その声の方に焦った春一は、
「あっ、大丈夫大丈夫」
慌てて立ち上がってきた。
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