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すると、
「失礼します。三嶋カズエさん、ですか?」
突然後ろからフルネームで呼ばれて、カズエはびっくりする。
こんな自分を知る人などいない場所で、一体なにごとかと振り返ると、そこには、自衛隊の制服姿の女の人が立っている。
「え、あ、はい……」
カズエには何も後ろ暗いところなどないが、カチッとした制服には妙な迫力があって、ついつい緊張してしまう。
すると女の人はカズエを安心させるようにフワリと微笑み、
「どうぞ、こちらに一緒にお願いします。実は来生二等空尉より、優待席にご案内するように申しつけられました」
「へ? 来生二等……、ってアキのこと?」
聞き慣れない呼び名に目を白黒させると、女性はおかしそうに笑いながら教えてくれる。
「ええそうです。来生二等空尉は、三嶋さんがそちらにおられると、集中して飛べないなどと申しまして」
「……へ?」
さっぱり意味がわからないし、それに今日カズエが航空ショーに来ていること自体、秋哉には内緒だ。
秋哉が教えてくれなかったから言う必要なんかないと思ったのだが、じゃあ何故、秋哉はカズエが会場にいることを知ったのだろう。
まさか見えた? あの一瞬で?
「――まさかね」
台の上に凜々しく立つ秋哉をカズエも見た。
秋哉との接触はそれだけだが、まさかあんな人混みの中でカズエの姿を見つけるだなんて、到底信じられない。
でも女性は、そのことについては不思議でも何でもないように、
「こちらにはナンパ目的の不届きな男性もいますからね。だから来生二等空尉は、あなたを見つけて、ものすごく慌てたようです。スクランブル回線で通信してきました」
「……」
「でも、来生二等空尉の気持ちもわからなくはないですよ。写真で見るよりも、三嶋さんはずっと美しい方ですもの」
「えっと、写真って?」
「ええ、高校生の頃のものでしょうね。来生二等空尉はいつも飛ぶ時には、あなたの写真を身につけていらっしゃいますよ」
「アキが私の写真を……」
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