96人が本棚に入れています
本棚に追加
/228ページ
「待てってば!」
傘もささず飛び出していく秋哉。
しかし仔犬は短い足をフル回転させて土手をのぼっていく。
その時、濡れた草に滑ってコロリと転んだ。
そのままコロコロ転がって、雨で増えた川の流れの中にドボンと落ちる。
秋哉はためらうことなく後を追って飛び込み、
「キャアアアアア!」
カズエが悲鳴をあげる。
しかし、
「痛ってぇ!」
秋哉はすぐに水の中から飛び出してきた。
それもそのはず、川の水は濁った水のせいでわかりにくいが、20センチ程度しかない浅瀬なのだ。
そこに思い切り頭からダイブしたものだから、秋哉は石で額を切って血をダラダラ流している。
「アキッアキッ、あがってきて早く」
水の量は少なくても、押し寄せる濁流は十分に人を溺れさせることがある。
足をとられたら、オシマイだ。
そんな中で秋哉は、
「ちょっと待ってくれ」
ちゃんと仔犬を捕まえていて、水の中で四つん這いになって、腕を伸ばして仔犬を先に岸に押しあげてやった。
怯えた仔犬は、陸地に下ろされるなり一目散に走って逃げていく。
「あっカズ、捕まえてくれ」
秋哉は言ったが、
「バカッ! あんたの方が先よ」
カズエは仔犬を無視して秋哉に傘の柄を差し出す。
秋哉はそれを掴んでようやく岸にあがってきた。
最初のコメントを投稿しよう!