One night dream

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One night dream

予想以上の猛スピードで走る船の上で、鈴音は、 「ヒャーッ!」 悲鳴をあげた。 旅行でやってきた日本海の海辺で、たまたま見つけた遊覧船だ。 約一時間のクルーズで自然が築いた断崖美と奇岩が眺められる。 せっかくだからと乗船し、風を感じようと船尾のデッキにいたら、出港した船は鈴音が想像していた以上の猛スピードで波を蹴立てて走り出した。 顔に痛いくらいの風がぶつかり、帽子をかぶっていれば、間違いなく吹き飛ばされているレベルだ。 船内に入ることも可能だが、今動けば転んでしまいそうで、椅子の背もたれに捕まっているだけで精一杯。 「ちょっとウソ! こんなに早いの」 「まあ、今日は風があるからな」 鈴音とは打って変わって、夏樹はのんびりと空を見上げながら言う。 「夏樹は平気なの」 「ああ、バイクだとこんなもんだし」 「夏樹ってバイクも乗るんだ!」 「二種以外はみんな持ってる」 ずいぶん長く一緒に暮らしているのに、知らないことがたくさんある。 夏樹はやっぱり底が知れない。
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