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そんな船のスピードも、お目当ての奇岩が眺められるポイントに到着すれば収まり、鈴音はやっとまともに息ができるようになった。
ホッと息をつく鈴音を見下ろして、夏樹は、
「……鈴音、頭がすげーことになってる」
「へ!?」
「すっげーソレ。寝起きの秋よりすげぇ!」
「なっ!」
飛び出した秋哉の名前で、自分の髪型がどうなっているかだいたい想像がついて、鈴音はバッと頭を押さえる。
触れた感触で、頭が爆発してしまっていることがわかった。
夏樹は失礼にもゲラゲラ笑う。
鈴音は顔を真っ赤にして、急いで手ぐしで整えようとした。
けれど、潮風を含んだ髪が指に引っかかって、
「――痛っ」
すると、
「あーあ、そのまま動くな」
夏樹は鈴音の手を取ると、
「じっとしてろよ」
絡まった髪を丁寧に解いてくれた。
「あ、りがとう夏樹」
ぎこちなく礼を言う鈴音だったが、そこで顔をあげて、やっと気づく。
「な、夏樹も……」
「ん?」
「夏樹もスゴイ。スゴい頭になってる」
耐えきれずプッと吹き出してしまう。
いつもラフに髪を遊ばせている夏樹の髪が、風になびいた状態のまま固まってしまっている。
それはまるで、
「――メデューサ」
見る者を石に飼えてしまうという、あの女神にそっくりだ。
いつもばっちり決まっている夏樹のあまりにギャップある姿に、鈴音は思わず、腹を抱えて笑ってしまった。
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