なんでもない一日

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なんでもない一日

夕方になると潤の機嫌が悪くなる。 夏樹が『妙』へ仕事に行ってしまい、春一はまだ帰らない。 そんな時間だ。 鈴音は夕食の準備をしたいのに、 「ほら、王子さまだよ潤」 「イヤー!」 「えっと、カボチャプリン食べる?」 「イヤーイヤー!」 背を仰け反らしてグズグスと泣く潤には、プリンスもオヤツも関係ない。 「イヤーイヤーイヤー!」 「……」 こういう時、鈴音はどうしていいかわからなくなる。 ただもう、泣きたい気分だ。 と、フワリと毛布に包まれる感触があった。 目を開ければ、そこには仕事から帰ってきた春一。 「……」 どうやら鈴音は、愚図る潤を抱えたままソファーでうとうとしてしまったらしい。 「ご、ごめんなさい。ご飯がまだ――」 慌てて立ち上がろうとするも、 「……」 肩を押さえられて、春一に止められる。 「そのままで」 「え、でも――」 春一は、帰ってきて置いたサイフを、もう一度手に取った。 「弁当、買ってくるから。潤用のも」 「でも――」 「今度の日曜は俺が作るから、今日は勘弁な」 春一はちっとも悪くないのに、逆に謝られてしまった。 自分の情けなさに、鈴音はかなり落ち込んでしまう。 すると春一は、ふと気づいたように鈴音の側に戻って来て、潤を起こさないように、額にひとつキスをくれた。 そして、 「ふたりの寝顔をみれて、俺いま、すっごく幸せ」 これ以上ないくらいのイケメン顔で笑う。 「……春さん」 「待ってて。すぐ戻る」 春一はさっと身をひるがえすと、再びドアを開けて部屋を駆け出していった。 「……」 鈴音は、 「私こそ、幸せですよぉ春さん」 今度は、泣き出したいくらい幸せな気分になるのだった。      ――了――
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