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それだけ言って秋哉は行為を続けようとするが、
「えっ、ちょっ、ちょっとカズ、なんで泣いてるんだ」
カズエはボロボロボロボロと、とめどなく涙を流していた。
「えっカズ、大丈夫だって。これ痛くねぇんだって」
秋哉は必死で言うが、
「ごめんアキ、ごめん」
カズエはとうとう秋哉から目をそらして、顔を両手で覆ってしまう。
「アキごめん。私それ、――怖いよ」
「怖いって……」
確かに、見慣れない者が見れば気持ち悪いシロモノかもしれないが、でも秋哉にだって、こればっかりはどうしようもない。
鬱血は秋哉の脇腹から背中へ、まるで羽根のように広がっていて、当然、そんなもの、一朝一夕では治るものでもなくて、
「怖いって……、怖いって言われても。ええーっ!」
カズエもガチガチに緊張しているところに、いきなり予想外のものを見てしまって、涙のタガが外れてしまったようだ。
「ごめんなさい。やっぱり私無理―」
子どもみたいに声をあげて泣き出してしまう。
正直なところ、赤い点々が無数に集まったおぞましい鬱血が怖いのか、それとも航空自衛隊で本気で鍛え上げた秋哉の男の体が怖かったのか、
――自分でもよくわからない。
もちろんマジ泣きするカズエを、秋哉がどうこう出来るはずもなくて――。
「わかったから、わかったからカズ。もう泣くんじゃねぇ」
秋哉は脱いだシャツを再び着こんで、一晩中カズエを慰める羽目になった。
「もう見せねぇから、怖くねぇから。な、頼むから泣きやんでくれよ」
一応、落ち着いたころに、もう一回行為のやり直しを交渉しようとして、秋哉は、カズエからキツいビンタを貰ってしまった。
これが秋哉とカズエの、初めての夜の出来事である。
――了――
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