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カエデは、
「行くわけねーですよ」
冬依の頬に手を触れて、涙を拭いながら答えてやった。
「俺が冬依さんを置いて、どっか行くわけがねーです」
「……」
冬依は、ホッと息をついた。
また気を失うように眠ってしまった冬依と同じベッドに潜り込めば、冬依はすがるようにカエデにしがみついてくる。
カエデの腕の中で、安心したような穏やかな寝息をたて始める。
こうやって身を預けてくれる冬依に、カエデは改めて、
「俺は冬依さんの側にずっといます」
そう誓う。
フランスに行ってしまうとか、離ればなれになるとか、もう関係ない。
カエデは今この瞬間、一生冬依の側にいることを決めた。
腕枕しながら小さな頭を抱けば、キュッとしがみついてくるこの何者にも代えがたい存在を、この関係を、世間では何と呼ぶのだろうか。
カエデは、
「フランス語って、どこで習えばいいんだ?」
そんなことを考えながら、今夜一夜だけの素直な天使を、そっと腕の中に抱きしめ続ける。
――了――
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