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器用な夏樹なら、きっとそれは可能だろう。
やっと近づいて来た春一に、夏樹はさっさと背中を向けてしまう。
鈴音のことは、肩を抱く春一に任せておけばいい。
ふたりに先立って歩き出しながら、
「やれやれ……」
夏樹はため息をついた。
鈴音に誓ったことは、言うほど簡単ではない。
しかし夏樹は有言実行の人だ。
少なくとも鈴音と潤には『そう』だと思わせている。
ならば、やり遂げなければならない。
ふたりに心配をかけない、完璧な王子様役を。
眠る潤のマナジリには、まだ涙が滲んでいる。
それを指先で拭ってやりながら、
「まったく、お姫さまごっこに付き合うのも楽じゃないよな」
夏樹は自嘲して、それでもどこか楽しげに呟いた。
――了――
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