春一と鈴音

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春一は、 「……白状するよ」 「白状?」 「俺は鈴音が言ってくれるような完璧な男じゃない。実はさっきもバカな嫉妬をした」 「嫉妬? 何に?」 鈴音が首を傾げると、 「他の男の助けなんか借りるなよって」 「へ?」 「俺以外の男に触られてんな」 「……」 そういえば、鈴音に手を貸してくれた男性がいた。 顔も覚えていないが、単純に、親切で鈴音に手を貸してくれた人。 「――ひがんでんだよ」 春一はフイと横を向く。 「鈴音と潤を守るのは、いつだって俺でいたいんだ」 「……春さん」 「言わせたんだから、早く手を洗ってきてくれ」 「はい?」 「さっきそいつに触られてただろうが!」 春一に強く言われて、鈴音は飛び上がるように洗面所に駆け込んだ。 パタンとドアを閉めれば、リビングからは、潤が楽しげに笑う声だけが聞こえてくる。 「……」 今のこの瞬間、春一がどんな顔をしているのか、たまらなく見たいと思う。 ほんの数秒の離れていただけなのに、ものすごく春一に会いたくなった。 すると、 「鈴音、まだか」 春一の方が先に鈴音の名を呼んでくれて――。 鈴音は急いで、ハンドソープをクイズボタンのように何度もプッシュした。      ――了――
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