遠い思い出

14/17
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「ものの中身は目では見えない。心でなくちゃよく見えない。」と星の王子さまの中でサンテグジュペリはキツネに言わせているが、俗物は人を中身で評価しようとせず上辺で評価しようとするから中身を見る心が育まれないのである。  そんな上滑りな俗人が作り出す俗世の付き合いについて言えば、互いに親切を装った上で時に巧言令色を以て、時に二枚舌を使って、時に佞弁を振るって、時に言を構えて、時に詭弁を駆使して、時に誣言を弄して、時に美辞麗句を濫用して、時に外交辞令の御世辞を並べ立て、時に三味線を弾いて、時に臭い物に蓋をして、そうして所々で下らん冗談やお追従笑いや愛想笑いや虚しい笑いや陰気臭い笑いを交え、といった具合に手を変え品を変え、ありとあらゆる卑しくもさもしくも狡くも悪しくもある方法を使い、結局、本心を噯気にも出さず韜晦した儘、本心には一切触れずに遣り過ごし、同調するのが実体で、一方的にどちらかがレトリックを尽くす付き合いは有っても互いに真実を求めてディアレクティケーの技術を用いながら侃々諤々、丁々発止と渡り合う付き合いは素より肝胆相照らすなぞという誠意ある付き合いは皆無に等しく実に薄っぺらでへらへらしていて嘘で塗り固められた、信用の置けない物ばかりで成り立っているのである。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!