光の先にあるのは闇

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光の先にあるのは闇

「ふふふ...。ふはははは...。」 暗闇の中で誰かの笑い声が聞こえてくる。 汚れた手袋を外しながら、足元に転がる物を見つめる。 その眼差しは、狂気を帯び、寒気を感じてしまうほどだ。 「...また、見つけたくもないのに...。本当に、どうして人は、私を放っておいてくれないのでしょう...。」 足元を照らす光がゆらゆらと揺れる。 ―!! ...自分ではない誰かの気配を感じ、息を潜めた。 後ろ、やや左側から感じる自分を焼き尽くす様な鋭い視線に、ゾクゾクと武者震いをしてしまいそうになる。 いいや、歓喜の震えと言った方がしっくりとくるだろう。 あぁ...、これだ。 私の求めていた瞬間は。 相手に気付かれないようにそっと、準備してきた物を地面に置いた。 望むものを手に入れた瞬間、奴の本性が見えるのだ。 いつもは、興味がないものに対しては見向きもせず、誰かに声をかけられても、心を許した相手以外には冷たい態度を取るその姿を、今、ここで...奪い取ってやるぞっ!! ふははははははぁっ!!!!! ―! リーン... チリーン...。 微かに揺らいだ空気があった。 こちらの気配を伺いながら近づいてくるその時間が、私の心を震わせ、興奮を高めていくのだ。 はやく... はやく... おいで... カプリっ♡ くははははは、見るがいい。 どんなに姿を偽っても、私の前ではお前は無力なのだ。 「...父さん。 一人で餌をあげに行くって言ってたけど、何よそれ。」 あっ、やべっ。...見つかった...。 《説明しよう》 ネコ嫌いの俺にとって、エサを与えることすら、ダンジョンのラスボスのような緊張感を持っている。 家族の中で、たった一人だけがネコが嫌い。いいや、嫌いなのではない。苦手なのだ。とりあえず、説明するのが面倒だから嫌いだと言っているものの、そこまで嫌いではない。苦手なのだ。猫を飼いたいと言ってくる義理の母、妻、長女、次女。 多数決と論破によって共同生活が始まった。そして、容赦なく、約束をバッサリと破られ、週に一度まわってくるエサやりと片付け。 相手も、自分の事を苦手だと思っている奴に対して、きつく当たってくるときがあり、何度経験しても、精神的に苦痛だ。 会社でも家でも誰かの機嫌を伺うのに、ペットにまでしなければならない俺って何。 心の中に暗い闇が生まれた。 そうだっ! 若い頃に読んだ記事に「苦手な物を克服するのではない。自分の好きな物に置き換えて挑むのだ」とあった。まさに、これの事だと思った。 自分の好きな悪役に成り切りながらの片づけは実に楽しかった。 転がっているぬいぐるみは、自分に挑んできたヒーローの躯だ。 実に気分がいい。 いつもは、すぐに威嚇してくる奴も、今日は、違うのかとすぐに感づいた。 さすがだぜ。 いつもは機嫌を損ねないように置くエサ入りの皿も、今日は、自分の足元に置き、焦らした。 にじり寄ってくる姿は、誘惑に負けていく瞬間。 ー 勝った - 優越感に浸ってたけれど、非常にまずい現場を家族に知られてしまった。 さっきまで、俺が...。 「...ごめんなさい」 目の前には腕を組んで俺を見下している妻、長女、次女(義理の母はすでに就寝)。 床に座ったままで謝る俺。 あぁぁぁ...。 また、あの怯えるようなエサやりイベントが、俺を待っているのだった。
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