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ーー夜。何事もなく、いつもと同じように彼が帰ってきた。 「お帰りなさい」 「ただいま」 「今日は、早いのね」 「あぁ、まあ」 知っていながら私はなんとも意地悪な言葉を向けてしまう。 このノートを書き終えた彼がもう遅く帰る理由などないというのに。 けれど、彼はそんな私の意地悪な言葉にさえなにも言い返さない。 口下手な彼はいつだってそうして私を暖かく受け入れてくれていた。 「はい、これ」 「なに?」 「素敵なラブレターをありがとう」 「あ、いや」 大学ノートを差し出せば彼は頬を赤くして俯いた。 「返事、書いたの。読んでくれる?」 私が言えば彼は俯いていた視線を上げて目を見開いた。 「もちろん」 「よかった。最後まで読んだら__________________だけを読んで」 「え」 私は彼の付箋に書かれていた指示を、同じように彼に伝えた。 すれば、ノートを受け取った彼は自分の綴ったページを急いでめくっていくと私の筆跡が羅列したページにたどり着きじっと私の綴った文字の羅列を読んでいく。 朝、彼と交わした会話を思い出した。 “あとで読んで” “今じゃダメなの?” “恥ずかしいから僕のいない時に読んで” 本当にその通りだ。 赤裸々に綴ったものを目の前でその人に読まれるのはなかなか恥ずかしい。 言葉にするより形に残る分余計恥ずかしいことに今更気がついた。
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