マヌケなマリオネット

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マヌケなマリオネット

 その闖入者は僕ちゃんに歯をむき出しては勢いよく吠えてきました。    ワンワン! とね。    「わぁ! びっくりした」  「コラコラ、リリスちゃん! 吠えなさんな、吠えすぎ、リリスちゃん! すいませんうちの子が、こんなに吠えちゃって、こーら、おほほほ。リリスちゃん朝から近所迷惑ですよ」  近所でいきつけの歯医者さんが飼っているビーグル犬がやたらと吠えかかってきました。  医院名は「デンティスト・ビーグル」とやややりすぎな名前です。  看板のロゴもこのビーグル犬がモチーフになっています。  さぁさっぱりです。  そしてこのビーグル犬、流石は狩猟犬です。  やたらと鼻が利く。  人肉のニオイかな?  染み付いたニオイってなかなか取れなさそうですからね。    因みに歯科医さんは、愛子さんと言って推測ですが40歳手前の小柄な超美人さんです。  見た感じは、28歳とか言っても信じられるでしょう。  彼女には僕ちゃんの欲望を満たす全ての条件が備わっています。  美人な歯医者さんをMRIとかCTスキャンにでもなった気分で透かして観ていると。  気になるのか、まだ吠えかかってくる。  ワンワン! と。  「おーっと、あらら恐いなぁ~、いやいや可愛いのにやたらと吠える。嫌われちゃったかな?」  どうにか仲よくするために長く垂れた耳を撫でようとすると歯をむき出して飛びかかってきたので、慌てて手を引っ込めました。  リードがなかったら本気で食いつかれそうです。  人肉はさして上手くないぞぅ、多分。  「あら、やだ。なんでこんなに吠えるのかしら、おほほほほ」独身の愛子さんは困りながらも笑顔だ。  桜とのコントラストもバッチリです。  何かの一枚絵です。  なんだろう?  育ちもよくとても魅力的で既に僕ちゃんの血はマスクをしていない愛子さんの口元を見ては疼いていました。  たまに上唇を舐める仕草もやたらといい。  魅惑的です。  「ほら、こっちいらっしゃい、リリスちゃん。ではまた。あ、次回のご予約いつだったかしら?」    「あぁ、来月の第一金曜日ですよ、よろしくお願いいたします」    「はいよろしくお願いいたしますね」と愛子さんの声を聞くや否や、この狩猟犬からもらった嫌な気分を払拭するために素早く反対方向に振り返りました。    「あ! 」愛子さんの喉の奥で発音した声に、つい「え?! なにか?」、更に速いスピードで振り返ってしまいました。    両足をクロスしたマヌケな状態のまま何かを誤魔化すみたいに、少し下唇の端を噛んで左の眉が少し上がってしまいました。    見えない糸で引っ張られてるみたいに。  これではまるでマヌケなマリオネットです。  そんな僕ちゃんの心を見透かしたようにビーグル犬リリスはまだグルルと睨んでいます。  「保険証お忘れなく、月が変わると必要なので。ではまた来月」と手を振りつつ狩猟犬の急発進に引っ張られて、行ってしまいました。  愛子さん細い腕は肩からすぽっと抜けそうでしたが、お尻には確かな主張があり、くびれた腰は高価な花瓶のようでした。  しかし小さくて美人なのはぴったりなのだが、あのお犬様がちーと邪魔です。  狩猟犬のビーグル。  あれ?  名前なんだっけ?  まぁ良いです。  僕ちゃんは「どーもー」と軽い面持ちで横向きの会釈をしました。  足はやっぱりクロスしたままです。
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