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《高校生編》16.初デート
※平視点
金曜の昼間に受けたフラストレーションをその日の部活にぶつけ、鎮めきれずに土曜の剣道場に持ち込めば、師範と猛兄にボコボコにされ、そしてやっと期待に満ちた日曜日である。
デート。
いい響きだなあ、と思わず多幸感に浸る。待ち合わせするとかさあ、なんか特別感、イベント感があるじゃん。そんな風に頭の中に花畑を展開させながら、いそいそと三つ先の駅に向かった俺が目撃したのは、花畑が一気に吹き飛ぶような光景だった。
――てるちゃんが、他の男……アルファから声を掛けられている。
改札を出てすぐの柱に寄りかかったてるちゃんは、黒いスキニーと白地に紺ボーダーのTシャツというごくごく平凡な格好をしている。ただね、その服の中身が平凡とは掛け離れたスタイルなんだよね。頭ちっさいし、足ほっそいし。Tシャツだって普通のなのに、てるちゃんが華奢だからか、妙に襟ぐりの開きが、隙がある感じに色っぽくみえる。そこに剥き出しのプロテクターが嵌められてるんだぞ。目立たせたくないからスキンカラーとか本人言ってるけど、存在に気付いちゃうと余計エロく見えると思う、あれ。
……だからつまり。
通りすがりのアルファから見ても、てるちゃんは十分魅力的だということだ。
いやもちろん、てるちゃんの外見は魅力的だけど、快活なのに気まぐれな内面と揃ってこそだと俺は主張したい。しれっとした顔で澄ましてるかと思えば猫のように甘えて来たり、あけっぴろげでお日様みたいな幼い笑顔を見せるかと思えばすっごい男らしい物言いをして大人びたり……とにかくそういう渾然一体感がてるちゃんの魅力なので――――外見だけに惹かれた初見のアルファなんぞお呼びじゃないんだよ。
そのアルファは、柱にもたれたてるちゃんを閉じ込めるように立っている。小柄なてるちゃんを上から威圧しようとしてか、随分と近い。てるちゃんは困るを通り越して辟易した様子で、男から視線を逸らしている。そしてやんわりと挙げた手で、お断りを表現していた。もちろん言葉でも伝えているのだろうが、男に引く様子はない。
俺はそれらを、改札に向かいながら凝視していた。
てるちゃんは自分だけでは捌ききれないと見てか、改札へ盛んに目をやっていたから、俺にすぐ気付いた。
ぱっと表情が明るくなって、淡い色の唇が「たいら」と動いたのが見て取れた。あー、名前呼んでくれた。それだけでなんか満ち足りる。
てるちゃんの視線を追った男が此方を振り向いたので、しばらく見つめ合うというか睨み合うことになったが、やがてつまらなそうな顔をして去って行った。
改札をくぐり抜けた俺は、てるちゃんの元へ直行する。
「てるちゃん、大丈夫だった」
「あー、うん。なんもされてない。――しかししつっこかったなあアイツ」
近寄った俺は、ああ、と思った。
「フェロモン出てるじゃん」
アルファをそわそわさせるいい匂いは、オメガを何倍も魅力的に見せてしまう。
「あー、そうか。ホラー見て興奮したし……」
自分では匂いの分からないてるちゃんは、それでも腕や肩の匂いを嗅いでみている。そうしながら、「それでここ来るまでも」と呟いた。小さな呟きだったけど、俺にはばっちり聞こえてしまった。
「他にも声掛けられたの?」
飛び出した問いは、自分で思った以上に険のあるものになってしまった。そのとげとげしさに、てるちゃんは肩をすくめる。
「まあいいだろもう。昼飯どこ行く? 腹減ったよ」
「良くない。全然良くないからね。教えて、どのくらい声掛けられたのさ」
「……二人くらい。でもそんなのしょっちゅうあるし、何でもないから大丈夫だってば」
俺はてるちゃんの口から明るみに出た新事実に、すごくムカムカした。
――しょっちゅう?
じゃあひとりで行動してると、アルファに声を掛けられることがしょっちゅうあると言うのか。
俺は思わずてるちゃんの腕をつかみ取ると、今し方くぐったばかりの改札へと歩き出した。
「へ? 平?」
「帰ろ。ウチでご飯出したげるから」
「えー? ……まあいいけど」
てるちゃんは不服そうにしていたけれど、ちゃんと俺について来てくれた。ごめんね、とびっきり美味しいご飯作るから。
「なんなら駅前のスーパー寄ってく? リクエストあるなら作るよ」
「え!? いいの? ……でも昼か……」
結局軽いものということで、具沢山の冷や汁そうめんをリクエストして来た。
そのくらいなら冷蔵庫の材料で作れるな、と思ったので、スーパーには寄らずに帰宅。仁科家にてるちゃんを連れ込んで、やっとほっとした。俺のテリトリーだからね。もう誰も近寄って来やしない。これで安心。
そして急いで作って食べさせて、……何となく沈黙が落ちた。
「……シャワー借りていい……?」
どう切り出そうかなと思っていたら、なんとてるちゃんの方から切り出してくれて。上目遣いに少し照れ気味に言ってくるものだから、俺は心臓をばくばくさせてしまった。その顔かわいいったらないよ。
そして色々整えて、てるちゃんと三回目のベッドインであります。
シャワー上がりにも関わらずきっちり着込んでたてるちゃんをぱぱっと脱がせて、白い裸体にうっとりと見入る。細いけど、骨そのものが華奢なのか肉付き自体はあまり筋張ってはいない。かといって、本人が言うほどふにふにと柔らかい訳でもない不思議な身体だ。完全に男じゃないけれど女でもない、見事にその中間を貫く魅惑的な腰つき。すごいきれいで見る度に感動するしそそられる。
「あんまり見んなよ……っ」
恥ずかしさにばたつかせた足に蹴られるが、別に痛くない。むしろそうやって動かれると誘引フェロモンが舞っちゃってぞくぞくする。かわいい。
金曜日の昼に散々煽られたのにどうにも出来なかったのを思い出しながら、てるちゃんの身体を拓いていく。この二日間、ずっと触りたかった。その思いのままに触れれば、返る喘ぎに心がじわりと満たされ、それが更なる高揚を呼ぶ。
「ぅん、ぁ……きょ、は、ぜんぶいれる……ッ?」
ぐちぐちと音を立てる窄まりには、すでに三本指が入っている。丹念に内側をほぐし、前立腺をいじって何度かイかせたせいか、とろりと柔らかい。
「入ればいいねえ」
初回と前回は遠慮したけど、今度はいけるだろうか。
「あ、後ろから入れてみようか?」
そう提案すると、てるちゃんは少しショックを受けたような顔をした。
「え、え、で、でも」
あれ? あんまり恥ずかしがったりしない方なのに、バックは恥ずかしいのかな?
「後ろの方が楽っていうけどなあ」
まあ俺だって経験はないから、実際に楽かどうかは知らない。けれどもてるちゃんは心動かされたみたいで、
「じゃ、が…がんばる」
と言って、真っ白なお尻をこっちに向けてくれた。
「こ、こお?」
柔らかいけど肉の薄い、まんまるではないお尻。真っ白なのに、その中心には俺にさんざん広げられた部位が真っ赤に色づいている。そのコントラストの淫靡さに目が眩むような欲望を感じ、俺はてるちゃんの腰に手を掛けた。
「じゃ、入れるね」
先端で孔の具合を確かめて、それからぐっと押し込んでいく。てるちゃんは息を詰めたようだけど、前回みたいにキリキリと絞られる抵抗感はない。体勢のせいなのかそれだけ上手くほぐせたのか……気を抜けば持って行かれそうになるのでわざとよそ事を考えながら、俺は慎重に腰を進めた。今いっちゃうなんて全部入る以前の問題だよかっこわるい。
「う~…、たいらぁ」
あー、いっつもだったら手を握ってあげてるから。淋しくなっちゃったのかな。てるちゃんがシーツを握りしめている。耐えてくれているんだから、俺はちゃんと最後まで入れきっちゃうことだよ、出来るのは。
てるちゃんの様子を見ながら、自分も暴走しないように気をつけて慎重に進んでいって、ようやっと全部入れ込むことが出来た。
「ん、」
点で繋がり合っていたのが肌でも触れ合って、てるちゃんも分かったのだろう。
「はい、った?」
振り向いた目にはうっすら涙の膜が張っていて、それが今にこぼれおちそうな様がたまらなくかわいい。涙が出ちゃうくらい負担なのに、耐えてくれたのがいじらしくてかわいくて愛おしい。
「うん。入った。がんばったね、てるちゃん」
そう慰めると、ついにてるちゃんの目から涙がほろっとこぼれた。
「う~、でも、このカッコ……たいら、ぎゅってしてくれない……」
「え、だっこ?」
え、やっぱ淋しい? どうしよ。
俺はおそるおそる、後ろからてるちゃんを抱え込んだ。そしたら中がきゅって締まって、こっちも更に深く突き込んだ刺激で思わず腰を揺らがせてしまう。く、と息を詰めて、俺は衝動を逃そうとする。動きたい……でも動くと身体が離れちゃうんだろ……。ん、どうすれば……。
俺はてるちゃんの腰をがっと抱え込み、引き下ろした。
「ごめん、てるちゃん」
背面座位っていうの? 後ろから抱き込んで股ぐらに座らせるやつ。あんな感じにした。てるちゃんはひゅっと息を呑むような音をさせて、ひくりと身体を揺らがせた。
「あ……、ばッか……ふ、かぁ」
抗議の声なんだけど、すごく甘い。かすれた語尾がじぃぃんと脳髄に染み渡るようだ。その心地よい音色にうっとりと聞き惚れ、俺は溜め息を付いた。
「ごめん、ごめんね」
なだめるように耳たぶを啄みながら謝れば、てるちゃんはびくりと飛び上がる。
「あ、あ、」
「……動いていい?」
うねった内壁に絞られて、俺も限界だ。てるちゃんははくはくと唇を震わせながらも、なんとか頷いてくれた。
細い身体を抱きすくめながら、下から腰を打ち付ける。てるちゃんの腹に当たって揺れてるかわいいあれを握りこみ、しごきあげれば、てるちゃんが泣き喘いだ。
「ひゃ…、ヤ、ぁ、やぁぁああ」
普段聞くことのない甲高い声に征服欲が満たされる気がして、ぞくりと肌が粟立つ。すごく気持ちが良い。
「てるちゃん、……照」
大好き、かわいい。すごく大好きだよ。かわいくてたまらない。ぐいぐい抱き寄せて肩口にキスをし、良い匂いのする首筋に鼻を寄せる。すごく良い匂い。もっとくっつきたい。なのに、邪魔な硬いこれは……ああ、咬みたい。
『平、俺のことちゃんと咬んでね?』
鈴を転がすような子どもっぽい笑い声が耳に蘇る。――今じゃない。そう、だけど、今咬みたい。あの時咬みたかったけど、咬めなかったから。今なら。
「てるちゃん、照、てるちゃん……だいすき」
邪魔な硬いのに阻まれて禄に咬めやしないのは分かっていたけれど、だからこそ俺は、てるちゃんのうなじに牙を立てた。硬い。柔らかな革の向こうの、硬い金属に阻まれる。
けれどもその箇所を咬めたというだけですごい満足感に包まれ、俺は一気に絶頂を迎えたのだった。
――ちなみにこの時の咬み痕ががっつりプロテクターに残ってしまったらしくて、俺はしたたかに怒られた。
歯形の付いたプロテクターは交換。てるちゃんは懲りたらしくて、今度は、うなじ側が金属と肌当たりのいい布張りの二重構造で、喉側が革と金属と布張りの三層構造のがひとつのわっかになってる奴を選んでた。連結部が側面に来ていて、そのデザインがちょっと近未来的で格好いいんだ。このタイプには色は黒しかなかったんだけど、……うん、スキンカラーでも黒でも、どっちにしても首輪状のものはエロいんだね、って思いました。
※ 平視点終了
(注;したたかに怒られた事件が【番外編/雨後の竹の子】です)
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