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三
夕空にひっそりと浮かぶ三日月を見上げながら、後輩と静かな通りを歩く。
「後輩、本当にありがとう」
「よいのです、雫先輩のきせかえは僕の趣味ですから」
私が元着ていた白いワンピースが入った紙袋を提げて、後輩は笑う。このワンピースも、そういえば後輩が選んでくれたものだった。
「そういえば後輩、服屋さんに入る前、何を言おうとしていたの」
ずっと気になっていたことを尋ねる。
「ああ、なんでもないことですよ。もういつもの雫先輩に戻ってくれましたし、言う必要もなさそうです」
「それでも、気になるわ」
後輩の目を見て、聞かせて、と頼む。仕方ないですね、と困り顔で笑う後輩。私達は、ずいぶん目と目で会話が出来るようになったと思う。
やがて、後輩が口を開く。
「──雫先輩が《神》を求めるのなら、僕が雫先輩の《神》になるって。……ね、聞く必要無かったでしょ?」
「いいえ、聞けてよかったわ」
私の《神》になりたい人はたくさんいた。でも、みんな私を失いたくないのだった。私は、私がいなくては駄目な人を《神》とは思えない。
もちろん、それは背理であると気付いている。
私が言う意味での《盲目的な信者》がいなくても平気な人は、私が言う意味での《盲目的な信者》は過剰で、不必要だ。そして、私の言う意味での《盲目的な信者》を求めている人は、つまり、私と同じように《神》を求めている。
では、後輩は?
隣を歩く、彼の顔をじっくりと眺める。三日月を背に、凛とした顔で彼は笑う。この後輩に、身も心も委ねきってしまえればよいのに、と思った。
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