1/1
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

 夕空にひっそりと浮かぶ三日月を見上げながら、後輩と静かな通りを歩く。 「後輩、本当にありがとう」 「よいのです、雫先輩のきせかえは僕の趣味ですから」  私が元着ていた白いワンピースが入った紙袋を提げて、後輩は笑う。このワンピースも、そういえば後輩が選んでくれたものだった。 「そういえば後輩、服屋さんに入る前、何を言おうとしていたの」  ずっと気になっていたことを尋ねる。 「ああ、なんでもないことですよ。もういつもの雫先輩に戻ってくれましたし、言う必要もなさそうです」 「それでも、気になるわ」  後輩の目を見て、聞かせて、と頼む。仕方ないですね、と困り顔で笑う後輩。私達は、ずいぶん目と目で会話が出来るようになったと思う。  やがて、後輩が口を開く。 「──雫先輩が《神》を求めるのなら、僕が雫先輩の《神》になるって。……ね、聞く必要無かったでしょ?」 「いいえ、聞けてよかったわ」  私の《神》になりたい人はたくさんいた。でも、みんな私を失いたくないのだった。私は、私がいなくては駄目な人を《神》とは思えない。  もちろん、それは背理であると気付いている。  私が言う意味での《盲目的な信者》がいなくても平気な人は、私が言う意味での《盲目的な信者》は過剰で、不必要だ。そして、私の言う意味での《盲目的な信者》を求めている人は、つまり、私と同じように《神》を求めている。  では、後輩は?  隣を歩く、彼の顔をじっくりと眺める。三日月を背に、凛とした顔で彼は笑う。この後輩に、身も心も委ねきってしまえればよいのに、と思った。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!