弐拾七時頃の空に。

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高台のマンションの屋上からは神戸の街が一望出来た。 進藤は何かあると、このマンションの屋上に来て街を眺めていた。 途中で買った缶ビールを開けると手摺に寄りかかり、温い夏の風を感じていた。 夏特有の噎せ返るような臭いが漂う。 冷えた缶ビールを口に含み、眠らない歓楽街の明かりをじっと見つめた。 新しい事を始める。 そんな事は誰も望んでいないのだろうか…。 進藤は遠くに見えるオフィス街を見つめた。 ふと気配を感じ、振り返ると若い女と男が進藤と同じように缶ビールを飲みながら屋上へと上がって来ていた。 進藤はマンションの住人かと思い、その二人に小さく頭を下げると、また街を見た。 「へぇ…。こんなところがあったのか…」 男はそう呟いて、進藤から少し離れたところに手摺に肘を突いて立った。 「このマンションだけは昔から自由に屋上に入れるのよ…」 女はそう言うと男の横に立って、瓶の酒を飲んでいた。 「あ、マンションの方ですか…」 女が進藤に言う。 進藤は慌てて、首を横に振った。
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