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殺してやる…。
武村は無意識にベルトに挟んだコルトを確認した。
刑務所を出て戻った神戸の街は大きく変わっていた。
武村と肩を並べていた須藤が若頭となり、事実上、組をまとめていた。
組長の佐々木源次郎を差し置き、すべてを牛耳っていると言っても過言ではなかった。
そして武村は須藤に騙され、敵対する金井組を襲撃し服役した事を知った。
その時から組を乗っ取る須藤の計画が始まっていた事も。
脳梗塞で倒れ入院している組長の見舞いに行き、組長の佐々木は涙を流しながら、片言の言葉で須藤の恨み言を口にした。
それを聞いて武村も組長の手を取って涙を流した。
「新しいやり方ってモンを身に着けないとヤクザもやっていけない」
昔から須藤はそう言っていた。
そのために武村を排除して組長を隠居させる必要があったのだろう。
佐々木興業は以前より組織を大きくし、敵対していた組を幾つも吸収していた。
それを須藤は我が物顔で取り仕切っている。
武村にもわかっているのだ。
昔のやり方では何処かの組に吸収されるか、組をたたむ事になっていた事は。しかしそれでも武村は許す事が出来なかった。
世話になった組長を追いやり、好き勝手やっている事が許せなかったのだった。
佐々木興業が経営しているクラブのあるビルの前で足を止める。
そしてその看板を見上げた。
「ここは変わらないか…」
武村はそう呟くと苦笑した。
そしてそのクラブへの階段を上がって行った。
入口のドアの前には昔から居るボーイが立っていた。
「武村さん…。ご無沙汰しております」
ボーイはそう言って武村に頭を下げる。
「いつお戻りに…」
武村はボーイの肩を叩き、
「一昨日だ…。一人だが行けるか…」
そう訊く。
「もちろんですよ…。どうぞ…。ママも喜びます」
ボーイは重厚なドアをゆっくりと開けた。
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