弐拾七時頃の空に。

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辞めてやるよ…。 進藤は薄くなったグラスを手にじっと棚に並ぶボトルを見つめた。 何で、受け入れられないんだよ…。 灰皿で燻るタバコを取ると煙を吐いた。 「進藤ちゃん…。大丈夫かい…」 バーのマスターが進藤の前に立ち、身を乗り出した。 「サラリーマンってのは辛いねぇ…理不尽な事に振り回されて、まあ、俺たちも理不尽な事言われる事は多いけどね…」 マスターはグラスを出して、棚からボトルと取った。 「多分、この酒を作ってる人たちもそれに振り回されてるんだと思うよ…。新しいモノより、古き伝統を重んじる世界だしね…」 そう言ってグラスに氷を落とすと酒を注いだ。 進藤は会社で嫌な事があった時に必ず、このバーに来る事にしてた。 ここで美味い酒を何杯か飲むと、嫌な事を忘れられた。 しかし、今日はそうもいかない様子で、グラスを握りしめているだけで、殆ど酒も進んで無かった。 「お前のやりたい事をしたいのなら、自分の会社でやれよ…。会社ってところはな、お前の冒険に付き合ってやれるようなところじゃないんだよ。嫌なら辞めちまえ…、この素人が…」 会社の将来の事を考えての企画を部長に提案したところ、そんな言葉が頭ごなしに返って来た。 奥歯がギシギシと音を立てた。 そして握った拳が震えるのを感じた。 「しかし、今後の事を考えると…」 そう口にした進藤を座ったまま見上げる部長はニヤリと笑った。 「お前に会社の将来を考えて欲しいなんて誰が言ったよ…。お前は自分が幾ら稼げるか、それだけ考えろ…。わかったか」 部長はそう言うと席を立って、進藤が作った企画書をゴミ箱に叩き付けるように放り込んだ。 進藤はその場をしばらく動く事が出来なかった。  
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