弐拾七時頃の空に。

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「新しい事を始めるにはそれなりの痛みを伴う…。それは判るだろ…」 ファミレスでネットワーク商法のパンフレットを広げた広川の言葉を安田と岩井は黙って聞いていた。 「だからさ、お前らも少しだけ投資してこれを始めたらリッチな生活が出来るんだよ。もちろん努力は必要だし、裁量もいる。だけど、他のどんな商売を始めるよりもリスクは小さい。これ見てよ…。みんなこれを始めて一年足らずで、こんな高級車乗り回してるんだよ」 広川はスマホの画面を開けて、高級車の横で誇らしげに立っている男たちの写真を何枚も見せた。 「俺たちにはそんな時間ないよ…。仕事だって忙しいしさ…」 広川はニヤリと笑って椅子に寄りかかった。 「お前たちに足らないのは時間じゃない…金だろ…」 安田と岩井は広川から目を逸らして小さく頷く。 「金があれば時間なんていくらでも手に入る。その時間はお前たちが好きな事に使えばいいんだよ。金があればそんな生活したって誰に咎められる事も無い。違うか…」 広川はビジネスマンを気取った口調で言った。 安田と岩井は黙ったままその話を聞いていた。 何の反応も無い二人に溜息を吐いて、広川は身を乗り出した。 「わかったよ…。俺が完璧にサポートするからよ…。金だけ準備しろよ…。そしたらお前らをセレブな世界に連れてってやるよ…」 広川は高級スーツのポケットからタバコを出してデュポンのライターで火を点けた。 「このライターも二十万。時計は二百万だ。そんな生活したいだろう…」 広川はニヤリと二人を見て笑った。  
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